■3  再放流

気がつくと視界には見覚えのある天井。
ヴィヴィオはボォーッと、その光景を眺めていた。
酷い夢を見たような気がする。

なのはママが変態さんみないな格好をして襲い掛かってくる夢だ。
夢の中のママはとっても意地悪で、怖かった。
なんでこんな夢を見たんだろう…


「おはよう、ヴィヴィオ」
「…ん…おはよう…なのはマ…ッ!!?」


その時ヴィヴィオは自身が置かれてる状況を瞬時に理解する。
そこはなのはといつも一緒に寝ていたベットの上。
しかし、手足は強固なバインドで縛られ固定されていた。

黒いボンデージに身を包んだなのはがヴィヴィオを見下ろしている。
あぁ……夢じゃなかったんだ。
悪い夢だったら良かったのに。

『ヴィヴィオ、ご主人様がおいでになったよ』
「…!?」



辛うじて動く目でなのはの後ろに立つ姿を凝視すると
暗がりから一人の男が姿を現した。
その男が前に歩むと、まるで神々しい君主にでも仕えるように
なのはは虚ろな瞳で下方を向いたまま跪き脇にひかえる。

管理局の制服を着ているが、ヴィヴィオには分かった。
アレは人間じゃない。
この男が私の大切ななのはママを変えてしまったのか…

『やぁ、ヴィヴィオ。いや、麗しき聖王。会えて嬉しいよ…』
慇懃にワザとらしく礼をする彼に対しヴィヴィオはキッと見つめ返す。
嫌な感じだと思った。誰かに似ている。
…そうだ!ジェイル・スカリエッティ。
余裕を崩さず、どこか人を馬鹿にした様な態度。
それが、あの狂気の科学者とこの目の前の男には共通していた。

「………して」
『ん?何かな?』
「返して!!私のなのはママを返してよ!!」

『彼』はふぅっと溜息をつき、横に控えるなのはに語りかける。

『なのは、君は戦闘は優秀だが『こちら』の方はあまり得意でないみたいだね』
『も、申し訳ありません。ヴィヴィオが予想外の抵抗をしたもので…』
『違うね……君はまだ、心の奥で光の当たる場所に戻りたいと願っているんだよ』
『!?決してそのような事は…』
『そろそろ理解したらどうだい?君の帰るべき場所はこの部屋じゃない。
 私のいる場所だ。それは10年前の盟約から決まっている事なのだよ?』


そう言って彼はなのはの顔をクイッと上げると、その唇を奪った。
なのはの瞳が急速に潤み、応えるように舌を絡めてしまう。
ん…チュゥ…チュルゥ…レロォ…ン……
『ふぁ…』

蕩けたような表情でなのはは脱力して腰をついてしまった。

『分っただろう?このキスのように…君はもう私から逃れられないのだよ。
 そしてヴィヴィオ、君もね…』


ゾクリとする。
『彼』に見つめられるとジワァッと下腹部が熱くなってくる。
でもヴィヴィオにはソレが何を意味しているのか分からなかった。

『彼』が近づいてくる。

「いやぁ、こないで!こないでぇ!!」
『ヴィヴィオ、君はこれから生まれ変わるんだよ。
 聖王ではなく、私と共に古代ベルカ復権の為に歩む『邪王』として』
「いやぁ、いやぁぁぁぁぁ!!!」

彼の手がズブリと…ヴィヴィオの胸の中に飲み込まれる。
一番敏感なところを鷲掴みにされているような感覚が全身を駆け巡る。
なんなの、これ…
だめぇ…きもち…いい…

ヴィヴィオの瞳から輝きが失われていく。
彼の手はヴィヴィオのリンカーコアに直接触れて、
その内部の情報を書き換えていく。
リンカーコアの構成要素全てが次々と反転していくのだ。
いつしかヴィヴィオの魔法光は七色から漆黒へと変化し、
部屋全体を塗りつぶすように溢れ始めていた。


雪崩のように襲い掛かる黒い快感がヴィヴィオの思考を犯し、
彼女の心をも書き換えていく。
「はぁ…んはぁ…… 頭がぼーってするよぉ」
甘い声を高らかに上げて、ヴィヴィオは口元に涎を垂らして恍惚とする。
もう抵抗感はない。

『(もっと、もっと…
  もっと、もっと、もっと、もっと!
  もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと欲しいぃぃ!!
  黒いのをいっぱい…いっぱいぃ……ヴィヴィオにください…)』


少女の心が変容の甘い蜜にドロドロに溶かされていく。

完全にヴィヴィオが堕ちる直前。
彼は娘の変容を虚ろに眺めていたなのはに語りかける。

『なのは、もう一度チャンスを上げよう。
 最後の一押しは君がやるんだ』


『え…』


虚ろな表情に戸惑いの色が浮ぶ。
彼女の心の奥で闇に沈んだはずの本来の心が
やってはいけないと警告を告げているのだ。
今ここでヴィヴィオを自分と同じにしてしまったら…
決して光の当たる場所に戻る事は叶わないだろう。

『どうした?やらないのか?』

『あ、あぁ……』



いつも心を捉えていたはずの白い霧のような物が急に晴れて…
急速に思考が回転する。
しかし、晴れた霧の向こうにあるのは純然たる正義ではなく、
複雑に絡まった苦悩だけだった。

私は時空管理局の人間であり、法の秩序を守ってきた。
苦しい事や辛い事は沢山あったけど、決して後悔した事は無い。
なぜなら、それが世界の誰かを幸せにすると信じているから。
本当なら、ここでヴィヴィオを助けて、
ご主人様…いえ、彼を倒さなければならない。

今ここで判断を誤れば、世界は多大な被害を受けるだろう。
それも、自分はその片棒を担ぐ事になってしまうのだ。


でも私は…欲しい。
彼…ご主人様の寵愛が。
この心も体も全てがご主人様のモノなのだ。
今ここで、ヴィヴィオをご主人様のシモベとすれば
再びあの甘い寵愛を受ける事ができる。


!?私、何を考えているの!?
今はチャンスのはず、正しい判断を…


……何が正しい判断なのかな?
私、私…わからない…変に……なる…


『ホシイ…ゴシュジンサマ…チョウアイ…
 ヨクボウ…ニ…シタガイ…タイ…』



…違う!!違う、違う、違う!!
自分の事だけ考えるな!!
ヴィヴィオは…ヴィヴィオはどうなるの?
やっと、幸せを手に入れられたのに…
ヴィヴィオは私の大切な最愛の娘。
あの子の泣く姿をママは見たくない。
もう寂しい想いをさせたくない。

私は…
私は……!!

その時だった。

「ママァ、きてぇ…!ヴィヴィオを…一人にしないでぇ!!」

「ヴィヴィオ…」



なのはの心は……決まった。


「ヴィヴィオ、約束だったよね…
 一緒に、一緒に堕ちよう……」


ゆっくりと近づくとなのははヴィヴィオの唇にそっとキスをした。
そこから黒いオーラが溢れ出し、愛娘の体を包み込んでいく。

「う…うあぁ……あああっ!!」
熱くなってきている腹部に聖王の魔方陣と
ベルカ式魔方陣が融合されたような魔方陣が浮かび上り、
虚ろに揺らめいでいた魔力がしっかりとした像を結び始める。
体中になのはと同じような呪印のようなものが浮かびあがり、
漆黒のオーラが腕と膝上までの脚部を包み込む。
さらに最低限の部分すら隠さない露出度の高い水着のようなラインも
同時に形成され始める。


一度踏み越えてしまえばもう迷いは無かった。
ヴィヴィオの口内に舌を差し込み絡めあう。
『ん…チュゥ…ヴィヴィオも気持ちいいんだね…』
『れろぉ…んぁ…ママ、ママァ…』

チュッ、チュウゥ…レロォ…ンォォ、チュゥ、チュピ…、チュゥゥ…
ワザと音を立てて淫らに絡めあう。気持ちいい、どこまでも気持ちいいぃ…

さらにヴィヴィオを包む邪気がはっきりとした物になっていく。
黒く光るボンデージ型のバリアジャケット、胸も局部も隠す気のなさそうな衣、
体や顔に刻まれているラインのような呪印、腹部に浮かぶ融合された魔方陣。
金色の長髪には先程と同じように青いリボンが左右に二つ付いているが、
表情は艶やかで妖しく、恍惚にして邪悪なる笑みを浮かべていた。
その口元にはシモベの証たる紫のツヤのあるルージュも施されている。

『ヴィヴィオ、どう?とても良い気分でしょう?』
そいうとなのはは愛娘の弾けるような美しい肌に舌を這わせ、
ツーッと紐衣のラインと肌の境界線を淫靡になぞる。
『はぁぁぁん、ママァ、いぃぃ…』
『ご主人様からのプレゼント、ママが喜んだ理由…分かるよね?』
『うん…とってもエッチで…とっても素敵ぃ…』


もうヴィヴィオの頭の中には、モラルなど下らないという気持ちになっていた。
今まではママの身を包む、あの黒いボンデージと露出全開の水着のような
バリアジャケットが忌むべき物のように見えていたのに…
今は自分も同じ物に身を包まれている事が堪らない…
この上もなく自分を魅力的に変えてくれる美しい衣だと思えてくる。
そして『彼』に見つめられた時の下腹部が熱くなるような感覚が響くように
全身を反響して、たまらなく気持ちが良くなってくる。

『フフッ…ヴィヴィオも同じ…ママと同じ存在になったんだよ』
『ママとぉ…おんなじ…ママァと同じぃぃぃ……!!』
『そう、ご主人様のシモベ…、ご主人様の為だけに存在する淫らなシモベに』
『シモベ…ヴィヴィオ…ご主人様のシモベ…』

そうだ、それが私の正しいあり方。私の存在価値。
この溢れる聖の力を邪へと変え、
全力を持ってママとご主人様の為にお仕えする。
その為に私は生まれてきたのだ…

ヴィヴィオの心は無垢であるが故にその色はどこまでも漆黒に染まっていく。
そして娘の心を黒く染める母のなのはも連動して、
心の片隅に残っていた希望の光を自ら閉ざし黒く塗り潰していく。
『んっ…れろぉ…チュッ…チュゥ…ふぁ…ヴィヴィオの…お口…おいしぃぃ……』
娘の唇を奪い、淫らに舌を絡めるドロドロに愛し合うようなメスとメスの絡み合い。
親子の親愛の軽い口付けではない、
愛おしさが屈折した白痴に蕩けるような口内性交。
かつての自分が蕩けて無くなっていく様な甘美な感覚。
どれもが高町なのはという一人の女性を英雄でもない、母でもない…
『ただそれだけの為の存在』に変えていく。
その連動する淫らな感覚に二人の心は深遠の闇へと堕ちていくのだ。

シモベ同士は感覚を共有できる。
なのはの体に自分と同じ存在になった娘の気持ちの良い感覚が流れ込んでくる。
また、ヴィヴィオも多幸感を感じていた。
ママが傍にいてくれる。それも、今までに無い一体感だ。
大切な人の全てを自分の感覚として感じ取れる。

親子に共通の認識が芽生える。
こんなに幸せなのに。私達が一つなる方法があったのに。
何で私達は今までの自分にこだわっていたのだろう…

そして、この素晴らしい感覚を与えてくれるのは『彼』。
そう、私達のご主人様。


一頻りの快楽交合を楽しんだ後、なのはとヴィヴィオは妖艶な笑みを浮かべ
恭しく仕えるべき主の前に跪いた。

我らが主、ご主人様に忠誠を…

二人は声を揃えて服従の意を表す。
こうして親子は共に彼の忠実なシモベへと生まれ変わったのだ。
『我がシモベ達よ、ならばその忠誠を行動で示すが良い』
すると娘のヴィヴィオが提言をする。
『ご主人様ぁ、それならヴィヴィオに良い考えがあります』
『フフッ、ヴィヴィオが考えている事分かるよ。私も同じ事考えてたんだ』
『ほう、申してみるが良い』
『はい、ご主人様…』
二人は顔を見合わせると、邪悪な笑みを浮かべる。
そして…



紅蓮に燃える劫火に包まれマンションは瓦礫へと変わっていく。
そこはかつて少女が心から帰りたいと願っていた場所。

しかし、今の少女に後悔の念は微塵も存在していなかった。
何故、あそこまで大切だと思っていたのか…
こんな場所よりご主人様と一緒にいる方がずぅぅっと大切なのに。

燃え盛る炎を見つめるヴィヴィオの瞳には邪な暗い光が湛えられていた。
あたりは少女の溢れる魔力の余波で次々と瓦礫に変わっていく。

『フフフッ…アハッ、アハハハハハハハハッ!!』
残響する爆音と少女の乾いた笑い声だけが辺りをこだましていた。
邪王と化した彼女の魔力は全てを赤に染め…
うねるように全てを飲み込んでいくのだった。



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