2 不測 「ふそく」

「そこまでだ!悪党ども!
 このアギト様が来たかぎり、薄汚い惨劇はここで終了だぁぁ!!」


その時、異様な空気に包まれた空間に凛とした声が響いた。

「やはり恐れていた事態になっているわね。
 私のプロフェーティン・シュリフテンで、この結果は導き出されていたけれど…
 この目で直に見るのはやはり…、辛いものね」

『…貴様か、カリム・グラシア。この状況を見かねて、ついに聖王教会も動くか?』

「ちょ!?無視するなぁぁ!!」


そこには一人の女性と小さな少女の姿があった。
カリム・グラシア。聖王教会騎士団 騎士にして未来予見の能力者。
そして、アギトだ。

『丁度良い。貴様の力も欲しいと思っていた。
 聖騎士(パラディン)としての力も、その未来予見の力もな』

「はやて、ずいぶんと変わってしまったのね。
 でも、ちょっとだけ我慢して?すぐに戻してあげるから」
『無駄な事を。もう八神はやてはこの世に存在しない。
 むしろ、お前も自ら、その美しい肢体を私に差し出すようになるのだ。
 その状況を想像するだけで…、ここが滾る様だぞ』


ビクンッと『彼女』のペニスが跳ね上がる。
変わり果てたはやてのその姿、
そして恍惚とした表情で画一的な姿勢のまま固まっている六課のメンバーに
カリムは寂しそうに目を背けた。

「…この場にあの子を、リインを連れてこなかったのは正解だったみたいね」
「アイツには辛すぎる光景だろ。こんなの見せられる訳ない!」
…残念やなぁ、リインにも是非手伝ってもらいたかったんやけどな、アハハッ!

カリムの憂いに満ちた表情に一瞬の怒気が走った。
彼女は温和な女性だが、このような状況を見せられて平然としてられるはずもない。
それでも、相手は壊れた機械なのだと割り切ろうとしていたが…
はやての真似事をされたのでは、流石に我慢が出来なかったようだ。

「…残念だけど、貴方の時間はもう終わっているのよ」
『月並みなセリフだな、私の時間がはるか昔、ミッドチルダに滅ぼされたあの日から
 止まっているのは百も承知だ』

「いえ、そういう意味ではない。今、ここで終わるのよ」
『何!?…グゥッ!!コレは……』


その瞬間、強力な魔力が空間に渦巻き始める。


『何……!?』
『間に合ったみたいね』



この空間よりもはるかに強大な魔法陣が展開されている。
青い清浄の魔力、それは凍てつくような冷気となって空間を覆いつくし…
しかし、物理的には冷たくとも、その魔力には不思議な温かさがあった。

『これはベルカ式?ばかな?こんなはずは!?
 ありえない、なんだこれは!?それに時間軸が崩壊しているだと?』
「貴方は本来、この次元に存在しない者…
 だから貴方を倒すのは、この次元に属する者ではなく
 極めて近く…、限りなく遠い世界に属する者達。
 でも彼女達だけではダメ、その奇跡を呼んだのは『あの子』よ」

静かに語るカリムに対し、『彼女』は目の前ではなく、天井の上、
その先上空にいる彼女達を見つめて叫んだ。


『祝福の風…奴か!!それにこれは…、融合騎?
 それを貴様が行うのか!?
 ロード・ディアーチェェェェェェェェェェェ!!!』

「策略に溺れる者は、イレギュラーに弱い。
 貴方が本当のはやてなら、この言葉の意味が理解できると思うけど?」


カリムは静かに言い放つ。
哀れな、壊れた過去の亡霊に。


「お返しするようだけど貴方の言葉に乗っ取って、
 月並みな言葉で語らせてもらうわね」


「『本当の絆』を理解していなかった事、それが貴方の敗因よ」


『ばかな!ばかなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


更に強大な魔力が空間に渦巻いていく。
その祝福の風は優しく全てを包み込み、因果の彼方へと闇を連れ去っていく。




『はやてちゃん、リインがんばったですよ?
 人形師に氷雪系魔法を決めて一発逆転、これでよかったんですよね…』


廃施設の上空に二人の人影があった。
一人ははやてにそっくりな黒い少女、そしてもう一人は桃色のロングヘアーの少女だ。
リインは黒い彼女とユニゾンを解くと、ペコリと二人に頭を下げた。


「ありがとうございますです、どなたかは存じ上げませんが、
 はやてちゃんたちを助けてくれて!」

『ふんっ、勘違いするな!お前達のような塵芥など知った事ではない!
 あのような壊れた下郎にゴミ扱いされたのでは王の名が廃る!!
 故に掃除をしてやったまでの事だ!』
「はわっ!おっかないですぅぅ!
 見た目ははやてちゃんでも、中身は悪魔ですぅ!!」

「さて、それでは行くとしましょう。あの子達に伝えておいて下さいね?
 あの時の借りは返した、って」
「いってしまうですか?」
「えぇ、ここは違う時間軸だから。
 運命の歯車が再び導いてくれるなら、その時にまた会いましょう」



こうして…
前代未聞の六課壊滅事件は意外な形で幕を閉じたのである……





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