7 同化 「どうか」

どれくらいの時間がたったのだろう。
はやては既に何度も絶頂を迎え、それでも終わる事のない淫獄の中に溺れていた。
心の障壁が砕け、正しい判断力を削がれ…

今では、はやても自然と陰部をフェイトの顔に押し付け、
なのはとも積極的に舌を絡めあうようになっていた。
それはあたかも、この場の雰囲気がはやてにも乗り移ったかのように…

「んん…、んぁぁ、ちゅるるぅ、ちゅるぅ…、んぉぉぉ…」

頭が真っ白になっていた。
はやての瞳から、輝きが失われており…
ただただ悦楽を享受するだけの肉の塊になってしまったかのようだ。

グッタリとした体に力は入っておらず、
その全てが…されるがまま、言われるがまま。
命令をされると、抑揚のない声で返答し、どんな変態的な行為にも応える。

「…はい。仰せのままに…」

それが今、はやてが口にする言葉の全てだった。
虚ろな瞳は何も映しておらず、口元は半開き。
キスを求められれば、その唇も無防備に開放される。

人形。
今のはやては美しい人形。

心の中は忘我の悦楽で染め上げられている。
人形状態の自分が嬉しい。
求められるままに動く自分が堪らない……

心は恍惚、多幸感のみ。
何も抵抗感を感じない。
ただただ、気持ちよいだけ……

魂が融けていく。
ただ、体だけになる。
意思のない、体だけの存在になっていく……


『(この結界の効果が出たようだな。では儀式の第一段階を始めよう。
  まずはこの男の体を捨てさせてもらう)』



ゆっくりと『彼』がはやてに近づく。
ウゾ…ウゾ……と、闇が再び滲みだした。
そのまま、『彼』がはやての前に立つと、
自然とシモベ達がはやてから離れ、その横で畏まる。

「あぇぇ、あぇぁ……?」
『さぁ、はやて。まずは私と一つになろう。王への階段を登るのだ』
「………ッ?あぁっ!いや、いややっ!」


急に意識が正気に戻り、今までの甘い感覚が嘘のように恐怖感へと変わる。
だが時は既に遅い。心も体も抵抗するだけの余力を残していないのだ。
彼の目が紅く光り、はやての瞳に飛び込むと、
心が絡め取られるような奇妙な愉悦を覚えた。
耳が、そして鼓膜の奥にある脳が主たる存在の命令を待っている、そんな感覚。

『命令だ。はやて。まずは私に服従するのだ』
「あぁ……」


倦怠感で体が動かないはずなのに、ガクンと体が勝手に動いていく。
両膝をつき、股を淫靡に開き…
胸は前にグッと反らし、肘を上げて腋を見せ、両腕を後ろに組む。

そのまま、その姿勢で体を固定されると、
途端に魔力が体中を快楽と共に走り抜ける。

足元と腕に甘い刺激が走ると、それは包まれるような感覚に変わり、
黒いエナメル質の手袋、ブーツに変化。
更に、首元から胸元、乳首から陰部までに、
敏感な性感帯を刺激するような快楽パルスが走ると
それはスリングショット風の漆黒の水着に変化する。

「(いややぁ…、こんな格好、はずかしい……)」

だが、唇を動かすことは出来ず、表情をピクリと動かすことも出来ない。
それどころか、心の中が焦燥感に駆られていく。

「(言いたい、はよう言いたい…、
  いや、言ったら最後、きっともう、戻られへん…
  でも、言いたい、言わんと変になっちゃう……
  あぁ、いいたい……、いいたい…、いいたいぃ!!)」


心が全て望むままに傾いていく。
もう止まらない。止めたくない………
………
……


頭の中が『あの言葉』一つに染まった。


『……我が主、ご主人様に忠誠を。はやてはご主人様の物です』


途端に心が安堵する。
全てがそれで良かったのだと、そう思えてくる。
はやての心は多幸感に包まれ、呆けたような笑みが浮かんでいた。


はやての陥落。
それは機動六課という部隊が壊滅した瞬間でもあった。
無双を誇った最強の英雄部隊は、脆くもここに崩壊したのだ。


『彼』がはやての顔を両手で撫でると、そのまま指で口元をなぞる。
するとその柔らかな唇には青紫のルージュが施されていた。

『あぁぁ…、ご主人様ぁ』
『さぁ、はやて。一つになろう。君は私に、私は君になるのだ』

『私がご主人様に、ご主人様が私に……』


虚ろな空洞のように輝きを失った瞳、
口元にうっすらと浮んだ呆けたような笑み。
全てを支配されたその表情に『彼』の顔が近づく。

『さぁ、一つに…』
『一つに…』

はやての首がカクンッと上を向き、パックリと口が開いた。
『彼』も大きく口を開ける。そして、そのまま彼女の唇を奪った。
しかし、それはキスというには程遠いく、一言で言えば
『連結』といった様相を呈していた。

『あぉぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!』

ギュォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッ!!

粘度の高い漆黒の闇が喉を通して体に進入していく。
はやての目が白目をむき、そのまま体が仰け反って、奇妙な体勢に変化した。

……意識が大きな何かと一つになるような感覚を覚えた。
存在を掌握されるような、淫靡な背徳感にも似た感覚に
このまま身を任せたらどうなるのか?という感情が
はやての心を覆い始める。

その途端、うっすらと融けるような感覚と共に…
自分が別の存在へと変わる事が気持ち良いと思えてくる。
名前がなくなる、存在がなくなる、別の存在に変わる…

喉を通る物理的な感覚も全てが気持ちよくなり
自然と笑みが浮んでくる。


心の端から中心まで、自分でなくなる事が嬉しくて堪らなくなる。


『………………』

そして、気がつくと『彼』の姿はそこから掻き消え、
固定された服従ポーズのままのはやてだけが残されていた。
しかし…、彼女の表情は今までとは違い…

『アハッ、アハハハハハハッ!!』

邪悪で凄艶な笑み。
なのはやフェイトに張り付いていたような、淫靡な微笑がそこにはあった。
彼女はそのまま自信と力に満ちた面持ちで立ち上がると、悠然とあたりを見渡し…

『さぁ、では第2段階へと歩を進めよう。
 真なる闇の主へと、この身を昇華させようではないか!!』


はやての声帯で『彼』はそう宣言した。


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