5 罠  「わな」

再び上空。フェイトの猛攻がはやてを翻弄していた。
ひたすら防御しながら、はやては機を待つ。

「(もう少し、もう少しや…、攻撃が通らない事を認識させなぁ…)」
『もう、硬いなぁ…それなら、少しだけ本気をだそうかな』


拗ねた表情でそう言うと、フェイトの魔力が急上昇する。
バルディッシュの形態が変化し、二刀流の形状を取る。ライオットブレードだ。
彼女があのモードに入るという事は、
高速乱舞による連撃で瞬殺にくるという事。
今の残存魔力で防ぎきれるかは五分といったところだが、
はやてにとっては待ちに待った好機と言える。

「どうしたんや、フェイトちゃん!
 私を落とす気なら、もっと本気で攻めなぁあかんよ!」

『フフッ、わかってるよ…全力で仕留めてあげる!』
「(そうや、もっと魔力を上げて繰り糸を晒すんや!
  私達がそれを断ち切って、
  もとの優しいフェイトちゃんに戻してあげるさかいな)」


急激に魔力が膨れ上がり、それに乗るように独特の構えを取るフェイト。
対して、はやてもその連撃を完全に受け止める気骨で
防御魔法の密度を急上昇させる。

自分達八神家と二人が出会う前の事。
なのはとフェイトは敵同士であり、お互いの譲れない想いを賭けてぶつかり合い
雌雄を決した時も壮絶な一騎打ちであったという。
その時、なのははフェイトの全力の攻撃を完全に受けきったと聞いている。

「(…なのはちゃんも今のような気持ちやったんやろか…)」

ふと、そんな事を思った。

次の瞬間、フェイトが攻撃のモーションに入る。
…その姿が掻き消えた。
否、正確には視認不可能なレベルの最速ダッシュによる始動の一撃!

「(速い!?でも…今や!リイーーーン!!)」

ギィィィィィィィィィンッ!!!

次の瞬間、何かに弾かれフェイトは数メートル後方まで引き下がった。

「闇に堕ちたお前の一撃は軽いな、テスタロッサ」

『…シグナム、貴方ですか』


フェイトがライオットブレードを構え直しながら乱入者を見つめる。
はやては状況が一瞬把握できなかったが、
確かめるように目の前の人物に呟いた。

「……本当に、本当にシグナムか!?」

目の前にあるのは頼もしい背中。
紅蓮に燃える剣を振り払うと、はやてを守るように立ち尽くす。

「遅れて申し訳ありません、主はやて」
「ええんよ…、シグナムが無事でいてくれたら、それでええんよ!」

少し目頭が熱くなる。
本当は心細かったのだ。
絶対の信頼を置いていた親友達が傀儡とされる現状。
大切な家族の安否の不明。この状況で強くいられる程、はやては鉄の女ではない。

それだけに烈火の将の堂々たる姿が、どれだけ心強く見えたことか。
これ以上無い頼もしい味方に心が軽くなったような気がする。
何より、大切な家族が無事に目の前にいる。それが嬉しかった。

「シグナム、いったいここで何があったんや!?」
「私にもそれが分からないのです。
 ただ言える事はテスタロッサ、そして高町なのはの両名が
 何者かによって意識を掌握されているという事です。下がっていて下さい。
 近接が得意のレンジでは無い貴方に、テスタロッサは危険な相手です」


そう言うと、シグナムは守るようにはやての前に立ち、
相対するフェイトを見つめながら静かにレヴァンティンを構えなおす。

『シグナム、邪魔をしないで下さい』
「テスタロッサ。主はやてを傷つける狼藉、
 お前であってもこれ以上許す訳にはいかん!」


両雄の激突。
最悪の状況ではあるが、はやてにとっては救いのある状況のように思えた。

シグナムがフェイトを牽制してくれれば、
その間に彼女らを操っている敵に集中する事ができる。
当初の作戦とはズレが生じるが、比較的安定した状況といえよう。
リインが索敵に成功すれば、自分がその領域一帯に一撃をお見舞いする。
これで勝機が見えたと思えた。
しかし…

『はやてちゃん!!そこは危険です、すぐに離脱して下さい!
 アギトと合流できたんですけど、
 事態は私達が思ってるより、はるかにまずい状態ですぅ!!』

「リインか?大丈夫や、
 今シグナムが駆けつけてくれたんよ。これでヤッコさんに攻撃を集中できる!!」
『ッ!?シグナムがそこにいるですか!?駄目ですぅ!今のシグナムは…』
「…えっ?」



その瞬間だった。


ザッシュゥゥゥゥ!!


……なんや、これ…、なんで目の前が…赤く……?


『主はやての捕獲は私の仕事だろう?テスタロッサ、お前達は先行しすぎだ』
『もう、シグナム。
 せっかく良い所だったのに…やっぱり貴方が手柄を持ってちゃうんですね』


はやては目の前の状況が理解出来なかった。
シグナムの逆手に構えたレヴァンティンの後方への一撃。
それが自分の腹部に刺さっている。
混乱している、一体何が起こっているのか…

「そんな…シ…グナ…ム?」
『無礼をお許し下さい。ですが、これは貴方の為なのです、主はやて』
「…どう…し…て……」

意識が遠のく。
暗く途切れる意識の中で見たのは、フェイトと同じボンデージに身を包み…
ポニーテールが解けたロングヘアーをかきあげながら。


妖艶に笑う、シグナムの姿だった。


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