4 左腕「ひだりうで」

「…ッ!…そ、そんな……」


『彼』の闇色の魔手がなのはの体を貫いている。
そして、なのはの突き出した左手は大きく逸れていた。

『残念だったね』

「……どうして…わたし…、『自分』で攻撃を…そらして…」

『とうぜんだろう?君の所有権は私にある。
 それも10年前からね。
 故に君の動作をコントロールすることなど造作も無い』
「……ごめん…ね、フェイト…ちゃん、助けて…あげられなくて…
 …ヴィヴィ…オ……、ご…めん…、ママ…は………」


沈み込むようにガクリと膝をつくなのは。
首がうな垂れ、意識を失ったようだった。

『高町なのは、君の心も美しいな。
 このような状況でも自分以外の心配とはね。
 その心、美しい容姿、全て私のための存在に染めさせてもらおう!』


そのまま『彼』の腕からウゾ…、ウゾ……と、
なのはの内部に闇が注入されていく。
そして、彼女の身を包んできた軍服が消失し、
暗黒のバリアジャケットの装着が開始される。

「うぅ……あぅぅっ、ああぁぁぁぁぁぁっ!!」

手から腕、太ももから足に掛けて、ゾクゾクとした快楽が駆け巡ると、
包まれるような感覚から黒く艶光するボンデージ風の装飾が装着される。

黒い魔力が美しい乳房から陰核へと走ると、その魔力ラインはそのまま、
体の最低限の部分だけを隠すような、露出の高いスリングショット水着に変化。
更に腹部に熱が帯びると、妖しい光を放ちながら、
ベルカの魔法陣が形成された。

「うんん……はぁぁぁぁっっ!!」

無意識に甘い嬌声がなのはの唇から奏でられる。
体中が快楽に包まれ、無意識だからこその素直な反応が表われていた。

『さぁ、意識を覚醒させるのだ、高町なのは。
 そして自分を変えられる悦楽に身を任せるがいい!』


その『彼』の声と共にブラックアウトしていたなのはの意識が
残酷な現実に引き戻される。

「…っ!?あぁっ、私……、あぁんっ!はぁぁぁぁぁっ!!」

意識の覚醒と共に、体に溜まった快楽が一気になのはの意識を甘く蝕む。
頭がぼぉーっとして、ただただ気持ち良さだけが体を包み込んでいく。

『さぁ、実ったその甘い果実を収穫する時が来た。
 高町なのはよ、今こそ生まれ変われ!!!!』

「(いけない……、このままじゃぁ……いけ……な……い……
  だめぇ……わたし……はぁ、いぃ……すごい…
  あたまが……まっしろに……だめ……なのに……
  わたし……あらがえない……これ……)」


体が自然と服従のポーズをとり始める。
淫らに股を開き、陰部を前に突き出す。
娼婦のように肘を上げて腋をさらし、手を頭の後ろで交差させ
胸を前にそらして程よい美乳を露にする。

「(わたし…かれ…に…つかえ…る
  わたし…ごしゅじん…さま…に…つかえ…る
  わたしは…ごしゅじんさまの…もの…
  ワタシハ…ゴシュジンサマノ…モノ
  ワタシハゴシュジンサマノモノ
  ワタシハゴシュジンサマノモノ
  ワタシハ……)」


表情が変化していく。
闇色の似合う、邪悪な笑みに変化していく。
そのような笑みを浮かべることに蕩ける様な陶酔感が発生する。
もう、我慢なんてできない。

「(カエラレル、ワタシカエラレル……)」


『いぃ!!いいぃのぉ!!!
 ……もう……らめぇぇぇぇ!!!!!!』



黒く艶光するバリアジャケット。
局部も胸も覆い隠せないくらいに露出の激しい淫らな着衣。

「(何で、私はこんな恥ずかしい装備を……?
  クスッ、でも…
  とても良い気持ち。なんて素晴らしい気分なんだろう……)」


思わず口元がニヤァッとつり上がり、邪な笑みが浮かぶ。
娼婦のように淫乱な、この服従の姿勢を取るのが嬉しい。
変態のような淫らな自分が嬉しい。

「(そうか……わたしが……この服を着ているのは……
  あのお方に仕えるため。そう、私のご主人様は……)」


あの方のために存在する自分が嬉しい。
全身が恍惚とした歓喜に満たされていく。

『(そう、全て…
  あの人が私の全て。
  誓います、ちまいます、チカイマス、チマイマス、チカイマス……)』


………
……


…なのはの心が完全なる闇色に染まった。
心からあふれ出る衝動のままに、『あの言葉』を口にする。


『…我らが主、ご主人様に忠誠を』


艶やかで邪悪な笑みを浮かべ続けるなのは。
その姿勢は服従の姿勢で固定され、
淫らに生まれ変わった自分を誇らしげに見せつけているかのようだ。
その心と体はフェイトと同じように『彼』の物となったのだ。

『改めて歓迎するよ、一等空尉。いや、我がシモベ高町なのは』
『はい、もはやこの身は我が盟友フェイト・T・ハラオウンと共に
 ご主人様のモノ、共に全力でお仕え致します』


抑揚の無い夢心地の声で、恭しく忠誠を口にする。

『君にも洗礼を与えよう。さぁ、その唇を差し出すが良い』
『はい…、ご主人様』

虚ろに蕩けるような微笑で身を預けるなのは。
その瑞々しく健康的な魅力を湛えている唇を奪う。
チュッ、チュゥゥ…、チュゥ……チュッ……、チュッ、チュゥ……

『れろぉ…、んんぁ…、ご主人様ぁ…』


ゆっくりと唇を離すと…
その口元にはフェイトと同じ青紫のルージュが妖しく彩られていた。

『なのはよ、君の強大なキャパシティを役立ててもらうぞ』
『ですが、私の魔力は……』
『安心するが良い、私の魔力はあともう少しで完全なものになる。
 そうすれば君は私の魔力供給によって、以前以上にその力を発揮できるはずだ。
 常にブラスター以上の出力を維持できるようになるだろう』
『本当ですか!?フフっ、この力を存分に振るえる日が再び…』
『そうだ、私は気づいていたよ。
 君の中に流れる高町という名の『修羅』の血をね』


なのは自身は今まで気づいていないようだったが、
彼女自身の内面に破壊に対する羨望、
強大な魔力を自らの衝動のままに振るいたいという欲望が
抑圧されていたことに『彼』は気づいていた。

『(どれ、では試してみようか…)』

そう呟くと『彼』はその瞳から、彼女へと思念を送りこんでみる。

『(君は求めている。血が踊るような戦いを)』
『…私は求めている、血が踊るような…戦いを…』


すると、なのはの瞳が呼応するように一瞬だけ、紅く光り…
その途端、急に彼女の雰囲気が変化した。

『…私の血が戦いを求めている。この力が完全ならば、戦いは永遠に続く!!』
『そうだ、なのは!平和な世の中に英雄は不要だ。
 そして君達に守られていた事実を忘れ、愚民共は平和を貪る。
 だが、奴らに思い知らせてやろう!君の力を、君の痛みを、君の苦しみを!!』
『そう、思い知らせてあげる!滅ぼす…!滅ぼす!!
 全てをこの力で!ミッドチルダを滅ぼす!!
 アハハハハハハハハハッ!!』


その異常なまでの戦意高揚もまた、『彼』に操られている証。
思念一つで、いつでも彼女は狂戦士(ベルセルク)に変貌するのだ。


『ククッ、なのは。私の憎しみが君にも乗り移ったようだね』
『………。はい…、なのはの心はご主人様の御心と共にあります。
 間違った世の中を粛清するために、是非我が力をお役立て下さい…』


『彼』が思念を弱めると、
再び彼女は淫靡なシモベモードへとシフトする。
『彼』はその反応に満足するように、彼女の頬を優しく撫でた。

『あぁ…、ご主人様……、なのは はご主人様のためならば、
 如何なる障害も排除致します、この力はそのためのモノ……』


かつての彼女はミッドチルダを護ると誓っていた。
更に自らの魔力を後世に続く者達を導くための礎にしようとも。
しかし、その高潔な意思は彼の暗褐色の憎悪に染められて…
如何なる破壊命令にも従う、忠実なる『彼』のシモベへと生まれ変わったのだ。


『(そう、今の彼女は正に 『堕ちた英雄』 と呼ぶに相応しいだろう)』


そして、戦技教導などという器に抑圧される程度の物ではない、
狂気にも似た破壊の魔力。
それを『彼』は美しいシモベと共に手に入れたのである。

『頼りにしているよ、私の愛しいデバイスよ』
『はい、お任せ下さい、ご主人様!フフッ、それでは……』
『あぁ、この体は仮初の物に過ぎない。
 野心が強く自己顕示欲の強い男だったからな。
 体を乗っ取るのも容易かった。だが…私に必要なのは夜天の主の体だ。
 その体に乗り移れば、200%の力を引き出すことができる』


恭しくかしずく忠実なシモベ達に主は号令をかける。

『なのは、フェイト。それでは準備に入ろう。
 君達は二手に分かれて、六課の前線メンバーを掃討するのだ。
 なお、追い詰められた英雄達は予定外の力を発揮する。
 努々、油断はせぬように。いかなる手段を用いても構わん。
 確実に仕留め、私の前に連れてくるのだ!』
『はい、ご主人様の仰せのままに』
『お任せ下さい、必ずや任務を達成致します』
『なお、任務を早く達成させた方には、私より直々に褒美をやろう』


その『彼』の一声で奴隷デバイス達の眼差しに、
淫靡な期待の感情が走った。
青いルージュに濡れる唇に同時のタイミングで、同じ形の邪な笑みが浮かぶ。

『さぁ、行くのだ!我が忠実なるシモベ達よ!』


はい、全てはご主人様のために……


盤上の駒は既に黒く染まり、金も銀も堕ち…
もはや残るは王将のみ。
今、正に機動六課崩壊は時間の問題となった。


そして、その最後の一手が今、打たれようとしている……


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