4 右腕「みぎうで」

『彼』は満足そうに…
床でグッタリと倒れこんでいるフェイトを見下ろしていた。


『楽しい時間をありがとう、フェイト執務官。
 では、そろそろ本題に入るとしようか』


『彼』がゆっくりとフェイトに近づいてく。
ウゾウゾ……と、不気味な闇を引きずりながら。
右手は黒く変質しており、闇で構成されているかのようだ。
その黒い指先ですぅーっとフェイトの体をなぞる。

『その美貌、豊満で魅惑的な体、全てが私のシモベとして相応しい。
 喜びたまえ、君は私に選ばれたのだよ』


そしてズブリと…
『彼』の手がフェイトの体の中に入っていく。


『さぁ、起きたまえ。フェイト執務官』
「ん……、あぁぁっ!あぅぅ………、……!?あぁ、これは!」

『彼』の右手が自分の胸部の中心に差し込まれている。
その驚愕の光景に驚く間もなく、
フェイトのリンカーコアに闇の注入が開始される。


「んんっ!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
『君は確かに優秀だ。
 直接的な戦闘ならば、私は君に滅せられていただろう。
 だが君も恩師から教わっただろう?
 単純な戦闘力だけが全てではないことを』


その瞬間、巨大なベルカ式魔法陣が『彼』とフェイトを中心に展開される。
それは部屋全体の床を覆いつくすような広さだ。


「この術式は…」
『そう、古代ベルカでも忌み嫌われた術式の一つだよ』

右手から送り込まれる闇が、リンカーコアに直接触れて
フェイトの情報を書き換えているのだ。


「うぅぅ??うぁぁぁ…はぁ…」
『君は私の物になる。それはもう決まっていることだ』
「はぁっ、はぁぁ…、わ、私…は…貴方の…物には…ならない」

その瞬間、彼の指がフェイトの中で妖しい動きを見せる。
陰部に愛撫を加えるかのようなその手つきに、思わず熱い吐息が漏れる。


「うぅんっ、うぅぁぁっ、あんんっ!!」
『ククっ、だが体が熱くて仕方が無いだろう?
 今、君は性行為で感じる何倍もの快感を感じているはずだ』

「はぁぁ…あんっ…どうして?んん…頭が…真っ白に……」
『さぁ、我慢は毒だ。その感覚に身を委ねるのだ』

瞳が虚ろになり、口元からは艶っぽい吐息が漏れ続ける。
余計な思考は消去され、利用できる記憶は堕落の鍵として残されていく。


「私…は…わた……し……は………」
『まずは問おう。君は何者だ?』
「わたしは…本局執務官…フェイト・テスタロッサ・ハラオウン…』
『それは違うな。
 君は騙されているのだ。そう、ハラオウンによってね』

「ちがう…、そんなはず…ない。
 母さんも…クロノも…わたしの…たいせつな…」

『それが刷り込まれた記憶なのだ。
 奴らは君を管理局の手駒とするために、家族ごっこで洗脳したんだよ?』

「!?…ちがう、ちがうっ…」
『全く恐れ入るよ、私が有する力より遥かに強力な洗脳スキルだ。
 君の継母にも義兄にも敬意を送らないといけないな』

「…あぁ、そんなはず…ない。
 母さんもクロノお兄ちゃんも私を…」

『だが、君はこうして管理局に所属している。
 それも元来、戦いを好まない優しい心に鞭を打ってまでだ』

「それは…、わたしが…のぞんだ…こと…」
『本当にそう言えるのかな?』
「あ…、そ、それは……」
『(ふふっ、ここで迷いが生じるか。やはり心が脆い。
  だが、脆く儚いものはどこまでも美しい。
  そのガラスの心、私が頂こう。
  闇色が似合う美しいダークグラスに変えさせてもらう!)』


更に闇がフェイトの心に塗りこまれ…
黒く、どこまでも黒く染められて、彼女の心は深海の闇へと沈んでいく。


『君は利用されていたのだ。全ての存在からね…』
「ちがう…、なのは…、なのはだけは、わたしを理解してくれた…」
『それすらも全て仕組まれたモノだったとしたら?』
「!?そんなはず、ない…、なのはとの出会いは…」
『ジュエルシード、夜天の書。そんなロストロギア関連の大事件が何故、
 あの短い期間で、しかも局所的に発生したのか、君は説明できるかね?』

「わからない…、わからない…、どうして?」

通常の状態なら簡単に答えられる疑問も、
闇で心が満たされつつある今のフェイトには分からない。
幼い少女が暗闇で路頭に迷う姿そのものだ。
ここで『彼』は決定打を打ち込む。
おそらく彼女にって一番のトラウマとなっている 『あの言葉』 を。


『教えてあげよう!それは全て管理局によって 『仕組まれた事』 だからだよ。
 君が 『造られた』 理由と同じようにね!』

「!?い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」



…闇の注入が終わった。ズブリと手がぬけて、フェイトが倒れこむ。
虚ろな表情のまま、天井の1点を見つめ、口元からは涎が垂れている。
彼女の脆い拠り所は砕け散り、闇が心を満たしているのだ。

『彼』はわざと優しく彼女の頬を撫でる。
闇に満たされた心は、忠実なる人形としての思考ルーチンの上書きを望んでいる。
それは生物が子を成すために求める性の欲求、本能の昂ぶりにも似ていた。

今のフェイトは『彼』の言葉を復唱すること、
思考を上書きされることが気持ち良くて堪らないのだ。


『フェイト、君は私のために存在する』
「…わたし…あなたの…ために…そんざい…する」
『忠誠を誓う人形』
「ちゅうせいを…ちかう…にんぎょう」
『心の闇を開放するのだ』
「こころの やみ…かいほう…」
『君は時空管理局が憎い、自分を利用した管理局が』
「にくい…かんりきょく…にくい!にくい!!」
『そして、今の君は同じ志を持つ私に忠誠を誓った、私の右腕』
「みぎうで。わたし…あなたの…みぎうで」
『君は私の忠実なるシモベだ』
「わたし…あなたの…ちゅうじつなる…しもべ」
『問おう、私は君のなんだ?』
「あなたは…わたしの…ごしゅじん…さ…ま…」
『そう、私が君の主。そして君の全ては私のために存在する!
 さぁ、フェイト執務官!生まれ変わる時だ!!』

「わたし…かわる…ごしゅじんさまのしもべ…なっちゃうぅぅぅぅぅ!」


ツインテールに結った髪が解け、
美しいロングのブロンドヘアーがフワッと広がり落ちる。

インパルスフォームが強制解除されると、そこにあるのは
成長して大人の魅力を醸し出す豊満で美しい肢体。
その腹部にベルカ式の魔法陣が浮かび上がると、
そこから呪印の如き魔力回路が走り、暗黒のコスチュームへと変化していく。

黒く艶光するボンデージ風のロンググローブ、ロングブーツ。
乳首、陰部すら隠しきれない紐のようなスリングショット風水着。
露出の激しい変態のようなバリアジャケットがフェイトに装着された。

更に自然と体は服従の姿勢を取る。
肘を上げて腋を見せ、手を後頭部の後ろに組み、胸を反らして…
そのまま娼婦のように淫らに豊満な乳房を突き出し、両膝をついて股を開く。
本来の彼女ならば人前でこんな恥ずかしい姿勢など取りはしない。

だが、今のフェイトはそんな淫らな自分でいること、
そして主である『彼』への絶対の服従を表すこのポーズに、
たまらない倒錯感を覚えていた。

そして、彼女の脳内に 『ある言葉』 が浮かび、
それ一色に思考が染め上げられていく。

………
……


やがて…、完全に思考が一色に染まった。
虚ろに半開きとなっていた唇が言葉を紡ぐために形を作り始め、
その 『言葉』 が声帯を通して宣言される。



『…我が主、ご主人様に忠誠を』


固定された服従姿勢のまま、恍惚とした妖しい笑みを浮べ…
フェイトは服従の言葉を口にした。
心は全てを開放された喜びに震え、性的な興奮にも似た
白く蕩けるような愉悦に満たされている。
服従の言葉を紡ぐのが気持ちいい…、支配されるのが気持ちいい…


『フェイトよ、改めて問おう。君は私のなんだ?』
『はい、ご主人様…、フェイトはご主人様のデバイス。
 私の全てがご主人様のために存在する道具です』


堕ちた自分自信を抑揚のない口調で告げる淫靡な感覚に。
自らの存在全てを掌握された淫猥な感覚に。
その全てに対しゾクゾクとした感覚を覚え…
奴隷デバイスと化したフェイトの頭に真っ白になる程の快感が走る。

服従姿勢のまま体は固定されているが、
この姿勢でいることが嬉しくて堪らない。
そんな彼女の、その柔らかな美しい唇に口づけを交わす。

チュッ…、チュゥ…、チュ……、んん…、チュッ、チュッ…、チュゥ……

『…んぁ…、ご主人様…』

するとフェイトの唇は青紫の美しいルージュに染まっていた。
そのまま、彼は指で乳首から陰部まで、スリングショットと共にツゥーッとなぞる。


『あっ…、はあぁぁぁぁん……』
『フフッ、やはり君には黒が良く似合う、そしてボンデージのように淫らな装飾もね』
『あぁぁ…、はい!ありがとうございます!!』
『しかし、あの清純な少女が、よくもここまでいやらしい体に育ったものだな』
『ふふっ、…この体は既にご主人様の物。
 好みどおりに育ったこの体で存分にお楽しみ下さい…』


艶やかで淫らな笑みを浮かべながら、誇らしげに体を差し出すフェイト。

『いいだろう、だがそれは一仕事終えてからだ。これから君は六課の内部に潜入し
 有能な人材を私のところに連れてくるのだ!』

『他の子たちも私のようにご主人様の下僕にするのですね。お任せ下さい!!』
『任せたぞ!我が右腕、フェイトよ』


『はい、全てはご主人様のために……』


最悪の始まり。
その一手は六課の良心とも言うべきフェイトのリバース。
彼女が闇の手に堕ちた今、六課は最大の危機を迎えることになる……



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