1 依頼「いらい」

それから数日後、管理局機動六課隊長室。
八神はやては同僚であり、親友のフェイト・T・ハラオウンに相談を持ちかけていた。

「…それではやて、夜天の書には何もなかったの?」
「そうなんよ、むしろ機動自体が軽くなったような、そんな感じやね。
 マリエルにも見てもらったけど、レジストリのゴミか何かの影響かもしれん
 言うとったなぁ」
「でも、彼女が夜天の書に接触した形跡はきちんと残ってる。
 そして、その彼女が遺体で見つかったとなると…」

「きな臭い事件やな。それより一番問題なのは防衛長官になったあの男が
 何もしてこん事や。機動六課のこと、ホンマに目の仇にしとったからなぁ。
 自分の部下が死んだ事、それすらも利用しようとするはずなんやけど…」



数日前、防衛長官直属の秘書である神楽のぞみ三佐が
遺体となって発見された事件は…
一部の管理局上層が知るのみの極秘事項となっていた。

しかし、彼女が夜天の書に接触した形跡があるとして、
現持ち主である八神はやて二佐には取調べが行われたのだ。

当然のことながら、この三佐殺害の件に関係していないはやては
事情を聞かれるだけに止まった。
しかし、彼女はこの事件に不気味な不安感を覚え、
秘密裏に執務官でもあるフェイトに相談を持ちかけたのである。

「検死官の話だと彼女の遺体に外傷はなかった。
 ただ、リンカーコアの方に異常の形跡があったみたい」

「どんな異常や?まさか、リンカーコアを収集された跡があったとか?」
「それが、リンカーコア自体が解析不能になっていて、
 これ以上は答えようがないって……」

「どうゆう事や?やっこさんの身に一体何があったんや?」

フェイトが言葉を詰まらせる。
解析不能、その言葉が意味している事の重さを感じているからだろう。

「……解析の結果から導き出されることは、『分からない』って答えみたい」
「不自然な事やな。まるで何かを隠してるような感じや。
 …フェイトちゃん、申し訳ないけどこの事件の調査、頼まれてくれるか?」
「うん、任せてはやて。夜天の書にも嫌疑がかかるのはイヤだし、
 昔の事もあるから、私で良ければ力になるつもりだよ」

「ありがとな、フェイトちゃん!」
「うん、はやては安心して待ってて」

……はやては後に、この時の事を深く後悔することになる。
もし、あの時フェイトちゃんを巻き込まなければ、と…
後悔とは先に立たぬもの、その事実は残酷という他ないだろう。





そのまま隊長室を出たフェイトは廊下でなのはとすれ違った。
高町なのは一等空尉。管理局のエース・オブ・エースにして、フェイトの大親友だ。

「あっ、フェイトちゃん!これからどこに行くの?」
「なのは、実ははやてから頼まれて、調べ物をしようと思って」
「そっかぁ、私でよければ手伝うけど?」
「大丈夫、これは執務官としての仕事でもあるから
 なのはに迷惑はかけられないよ、それよりエリオたちの様子はどうかな?」

「相変わらず優しいお母さんぶりだね、ちょっと過保護すぎるくらいかな」
「そ、そんなんじゃないよ、これはあの子達の上司として〜」

フェイトにとっては今でもエリオ、キャロのことが心配なようだった。
孤児である二人を引き取ってから、フェイトの母親としての愛情は
ある意味、血を分けた本当の親よりも深かった。
そして、どこまでも心優しい彼女は心配性でもあるのだ。

「もう照れない照れない!大丈夫、あの子達も大きな事件を乗り越えたから、
 ティアナやスバルよりしっかりしてるくらいだよ、やっぱり母親が良いからかなぁ?」
「もう、なのはの意地悪!…でも、ちょっとだけ安心した。
 あの子達、もう一人前なんだね」

「フェイトちゃん?」
「それじゃあ、なのは、また後で」

「…フェイトちゃん寂しそうだったな。私もヴィヴィオが一人前になったら
 今のフェイトちゃんの気持ちが分かるのかな…」


何気ない、いつものやり取りだった。
なのはにとっては親友の温かな優しさと、心に抱えるちょっとした寂しさを
感じ取れる会話。この時点では、それ以上の意味はないはずだった。
そう、この時点では……



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