(魔法少女リリカルなのはStrikerS キャロ・ル・ルシエ)
SS原作 : バーランダー様


■3

「眼は覚めたかしらぁ?」

…その声に意識が覚醒する。
少女が見出したのは両手を頭の上で交差させた姿勢で、
赤い魔力糸に拘束された自らの姿だった。
そしてもう一つは、おそらく自分を捕らえたであろう人物の姿。

「ナンバーズ、クアットロ…」

死を意味する番号を背負う旧敵。
「あら、よくご存じですね。光栄ですわ〜」
明らかに人を小馬鹿にしたような話し振り。
拘置所で晒した狂態は、そこにはなかった。
「知ってるよ。ルーちゃんを無理やり戦わせた人だから」
怒りの籠った視線がクアットロを射抜く。
今では友となった少女にこの女性が何をしていたのか、キャロは知っていた。

「この状態でよくそんな事が言えますね〜。そこだけは褒めてあげるわ」
余裕の笑みに対して、キャロにできることは何もない。
この状態ではデバイスは使えず、相棒たる槍使いの少年も、白竜もそばにいない。
「このままだと、どうなるかは流石にわかっているようですね〜?
 でもぉ、私は優しいからあなたが進んで私に協力する気なら
 拘束を解いてもいいわよ〜?」


少女の瞳が、わずかに揺れた。
―――かに見えた、が。

「わかりきったことを聞かないで下さい…!」

不愉快そうにキャロは吐き捨てた。
それは今更そんな質問をしてきたクアットロに対する怒りであり、
同時にそんな問いに対して一瞬でも迷った自分に対する怒りだった。
この女の言葉が最後通牒である事ぐらい理解している。
彼女はクアットロだ。
何のためらいもなく、自分の命は絶たれるだろう。
それでも幼いとはいえ、すでに何度も戦場を駆けて来た少女に死への恐れはない。
いずれ来るかもしれないと思っていた時が、運悪く来た。
ただ、それだけのこと。

心残りはある。
再会を約束した友達、かつての戦友、彼ら、彼女らにはもう会えない。
姉のようであり母のようでもあった優しい執務官にも。
友であり兄妹のようであった赤髪の騎士にも。
自分が死ねば…、きっと彼らは悲しむだろう。涙してくれるのだろう。
それでも。
邪悪に与することだけは出来ない―――

「あらあらぁ、やはりフェイトお嬢様と
 あの高町なのはに育てられただけはありますわね〜」

クアットロは―――嘲笑っていた。
同時に満足していた。
気に食わない。
だが、これだ。
こうだ。
こうではなくてはならない。
あの模造品とあの綺麗なエース様に育てられた少女は、こうでなくてはならない。
強く、真っ直ぐでなければならない。

こうであるからこそ―――この少女の変わりはてた姿と再会した時、
あの二人がどのような顔をするのか楽しみでならない。

驚愕か、悲痛か、あるいは憎悪か、絶望か―――
いずれにせよ、その表情はどれほど醜く歪むのだろう。
「仕方ない。それなら本当に仕方ないですねぇ。
 でも、本当にいいのかしら〜?
 今までの貴方は死んじゃうわよ〜?」

「あなたは間違ってる。わたしが死んでも、きっとあなたは罰を受ける。
 管理局は絶対に、あなたの事を逃さない…!」

クアットロは鼻を鳴らした。

「(気に食わない)」

やはりこの少女も気に食わない。
ならば―――もう、始めてしまおう。

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