(魔法少女リリカルなのはStrikerS キャロ・ル・ルシエ)
SS原作 : バーランダー様


■1

間近に迫る桃色の閃光。
空港火災で目撃したあの砲撃。
それが今まさに、自らの間近に迫り直撃しようとしていた。
「ひっ…」
逃げる。
もたつく足を動かし必死で逃れようともがく。
それでも背後から迫る光からは逃れられない。
何故。
まるで紙を破るように壁を突き抜け、あの砲撃は進んで来る。
ここはゆりかごでも最も重要な、最も防御された場所のはず。
何故。
あのような場所から、ここを狙い撃てる?
ここまで正確に、どうしてここへ砲撃が向かって来る?
何故。
何故!
何故、私がこんな目に―――!!

必死の逃走も徒労に。
自分は閃光へと飲み込まれ―――



「よりによってあの日の夢…最悪…」
堅くて狭い寝台の上、目を醒ましたクアットロの呟きは忌々しげな響きがあった。
第6無人世界の『ゲルダ』軌道拘置所。
彼女が囚われているのは凶悪犯罪者が収容される拘置所。
次元世界を守る時空管理局へ働いたテロ行為から、彼女はそこに収容されていた。

「(忌々しい……あの女…)」

脳裏に浮かぶのは自身を撃ったあのエースオブエース。

「高町ぃ…なのはぁぁ!!あの女、あの女ぁ…!」

そこにある感情は激烈な憎悪と屈辱感。
激烈な感情の奔流は自身を焼き尽くさんばかりで。
牢獄の中でやれることなど限られ、元より罪を償うなどという意識もない
クアットロが想うのは、ただあの女だけ。

「(あの女をどうやって惨たらしく殺してやろうか―――
  その前にどういたぶり尽くそうか―――)」


あの日から寝ても覚めても考えるのはその事ばかり。
だが、所詮は妄想。
そのような想像に何の意味もないことなど判り切っていた。
「あの女、あのおんな、アノオンナナァァァ!!!」
壁に爪が突き立てられる。
そこにいる何者かを引き裂くように、何度もそれを繰り返す。

無意味だった。すべてが無意味だった。
生き残ったナンバーズでは誰よりも冷徹な彼女に、それが判らないはずもない。
だというのに憎悪が現れぬ日はない。
執拗な怨念が彼女から薄れることはない。



その様子をモニター越しに見て、フェイトは溜め息をついた。
元よりナンバーズでも最も冷酷と見られていた彼女が、更生する可能性は低い。
むしろ更生した振りをして脱走を図る可能性の方が高いと判断されていた。
つまるところ、クアットロとはそうしたモノでナンバーズの姉妹の誰もがそう言った。
あの姉なら必ずそうするだろうと。

だが現実はこれだ。
ここにいるのは冷徹な策士ではなく、ただ高町なのはを恨み続けるだけのモノ。
もう観察する必要もない。
フェイトはモニターを切った。
きっとクアットロはなのはを憎悪したまま、あの牢獄で朽ちていくのだろう。
それが少しだけ哀れでもあった。

「他人を恨んでも何にもならないのに、貴方にはそれがわからないんだね…」

ましてクアットロのしたことを思えば、恨まれるのは彼女の方であるべきだった。
だというのに―――
それ以上は考えず、フェイトは踵を返した。
世の中にはどうしようもない者もいるのだと、もはや子供ではない彼女は理解していた。



―――だが、その数日後。
その報が管理局本局にもたらされた。
―――ナンバーズWクアットロ、脱走。

■ next scene ■