(戦乙女ヴァルキリー2  ヒルデガード)
SS原作 : バーランダー様


■7 GEOFU

『簡単なことだ。今ここで、証明してみろ。お前が、弱者をなぶり、
 支配することに快感を覚える者であることを…レイア』

『はぁい、ご主人様』

部屋の内へと足を踏み入れたのは、レイアだけではなかった。
彼女の左手には縄。その先に繋がれたのは魔族の支配に抗った一人の人間の男。
『ご主人様に逆らうなんて、馬鹿な人間…。
 せいぜい最後に、ご主人様の役に立ちなさい』


身体を拘束され、ただ敵を睨むしかできない男。
そんな姿を見ても、今のヒルデガードはまったく感情が揺らがなかった。
憐憫も、義憤も覚えない。
弱い者がそう扱われるのは当然なのだと。ただ、受け入れていた。
『あなたの好きにしていいのよ、お嬢様』
レイアから縄が受け渡される。
それをおもむろに引っ張り、男を引きずり倒したヒルデガードの瞳は
危険な色を湛えていた。

『不様ですね』
嘲りを含んだ声。
誰に対しても等しく優しくあろうとした少女の口から発せられた声だった。
男はそれに呼応するように、敵意に満ちた視線を送る。
『いい眼ですね…決して屈服しないという眼…』
嗜虐心が、頭をもたげる。
男の視線すらスパイスとして―――
ヒルデガードはおもむろに、男の下半身へと手を伸ばす。
『その眼を歪ませてみせましょう』
取り出した逸物を愛でるように、なでる。
その種の経験など全くないはずの少女が、まるで娼婦のように手慣れた様子で。
肉棒を扱き、巧みに男を責め立てていく。

『どうですか…我慢できませんか?』
苦悶の表情を浮かべる男を楽しげに眺めながら、なお容赦ない責めは続く。
サディステックな、かつての彼女からは想像できない笑みを浮かべ男を追い詰める。
瞳は危険な色を湛えていた。容赦がなく、慈悲もない瞳。
『出したいですか?なら、言いなさい。「お願いですヒルデガード様、出させて下さい」、と』
必死で首を振り抵抗するが、何度も何度も寸前で押しとどめられた男は…
「……さい」
『聞こえませんよ?』
「…お願いですヒルデガード様…出させて下さい…」

ヒルデガードの笑みが更に深くなった。
男を屈服させ、心の底から湧き上がる喜悦に酔いしれていた。
『よく言えましたね。望みを叶えてあげましょう』
巧みに指を操り、男に精を吐き出させる。
ヒルデガードは男をなぶるように責め立て、完全に屈服させた。
嗜虐的に振る舞うその姿は、さながら女王のようであった。
「!!…………」
『あぁ、その表情もいいですね。自分の弱さに絶望した顔…』
楽しげにそう言うと、今度は一転して慈母のような笑みを浮かべ。
ごく自然な動作で、レイアが差し出す剣を受け取り。
『安心して下さい。これからはもう、何も思い煩う必要はないですから』
横薙ぎに一閃した。


飛び散るもの、崩れ落ちるものには見向きもせずデュ―クへと向き直る。
『…どうですか、デュ―ク様?』
『ああ…素晴らしい』
男はつかつかと歩み寄り、少女の顎を持ち上げる。
『では、これが最後の儀式だ…誓え。この俺に、すべてを捧げると』
『はい……私、ヒルデガードはデュ―ク様に、すべてを捧げます。
 この身も心も、魂に至るまで』

その言葉と共に、少女はデュ―クに唇を捧げる。
するとエメラルドの鎧がひび割れ、中から黒い霧が噴き出す。
それはたちまちに渦を巻き、ヒルデガードの身体を包んでゆく。
嗜虐心、命を奪うことを楽しむ感情―――戦乙女には許されない感情。
それを抱いた少女はその姿を、その心に相応しいものへと変えられていく。

『(私が変わる…変わっていく…)』

そのことを実感したヒルデガードは歓喜と共に、それを受け入れていく。

『(これで私は…もっと強くなれる…
  そうすれば、デュ―ク様と共にすべてを支配し、世界を平和にできる…)』


その望みは、かつての彼女の望みとは程遠い。
だが今彼女は、その望みを叶えたいと心から望み、その魂を闇へ委ねた
その脳裏に浮かぶのは、天界と魔界とを完全に掌握した
デュ―クの傍らに侍る自らの姿。

『(ああ…あれが、私。あの光景を実現させること。
  ただそれだけが、私の―――)』





霧が次第に掻き消えてゆき、露わになるヒルデガードの姿。
戦乙女の清らかさを象徴するようだった兜の純白の羽根は黒く染まり、
兜自体も刺々しい装飾へと変化している。
漆黒を基調とし、紫で縁取られた手甲と鎧は腕や秘部を覆うのみで、
肩や下腹部の肌を大胆に露出させ、胸を覆う部分はむしろその谷間を
強調しているようだった。

新たな漆黒の衣を身にまとい、生まれ変わった少女の姿がそこにあった。
『新たな…暗黒の戦乙女(ブラックヴァルキリー)の誕生だな』
ゆっくりと眼を見開いたヒルデガードへと、デュ―クは問いかける。
―――お前は何だ、と。
主の問いに、闇に堕ちた戦乙女は淫靡な笑みを浮かべ。

『はい。私は暗黒の戦乙女(ブラックヴァルキリー)、ヒルデガード。
 デュ―ク様の下、その剣となり世界に真の平和をもたらす者。
 この身のすべては、デュ―ク様の為に』

銀髪の戦乙女は答えた。
この身は、ただ主のためのみにある、と。
『ならば聞こう、ヒルデガード。お前は、あの男を殺せるか?』
天界であれ魔界であれ、聞いた者誰もが愕然とするであろう問いを
デュ―クは不敵に微笑みながら呟く。
その主に向けて、ヒルデガードが紡ぐ言葉は…

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