(戦乙女ヴァルキリー2  ヒルデガード)
SS原作 : バーランダー様


■4 ANSUR

「魔族の成り立ちから、ですね…ええと…」
真っ直ぐ姿勢を正し、文章を読み進める。
すると右手に嵌めた指輪が輝き、それに呼応するように文字が光を発した。

「(あれ…?)」

頭の中がぼんやりしている。
ぽかぽかと体が暖かくなってくるようだ。

「(何だか…いい気持ちです……)」

文字が妖しく明滅する。
本を読み進めるヒルデガードの瞳は虚ろになり、焦点がずれてゆく。
『…天界と魔界は争いを続けて来た…』
ヒルデガードの唇から、文章が流れ出す。
霞がかる意識の中、何も考えられない少女の意志とは関わりなく。
『でもそれは、天界の神々が魔族のことを何一つ知ろうとしなかったから…』
『魔族は破壊と殺戮を好む…それはどうしてなのか…』


『そう、それは楽しいから…とても楽しいことだから…』
『力を持つこと…それを思うがままに振るうこと…それこそがすべて…』
『力を持たない者は…ただ死ぬだけ…』


『思うがままに破壊を行うことは…楽しい…』
『思うがままに弱者をなぶることも…楽しい…』
『何者かの命を奪うことは…とてもとても、楽しい…』

しかし自身の口からこぼれるその言葉は。
少女の脳裏深くに刻み込まれる。




「…あれ?」
ヒルデガードが自分を取り戻したのは、本を閉じた時のことだった。
「…いつの間にか読み終えてしまいました。いったいどうして…」
かすかな疑念が湧くが、すぐに打ち消された。
記憶が曖昧だが最後まで読み切った。
何故か、デュ―クの指示を守れたことが無性に嬉しかった。
『そんな満足げな顔をして。何を考えていたのかしら?』
いきなり投げかけられる言葉。
その質問の主は、すでに扉の内側にいた。
「レイアお姉様?いつのまに…」
『ついさっきよ』

そこに立つのは一人の女性。
その身を漆黒に染めた戦乙女。
『ご主人様のご命令でね、今から私があなたを教育してあげる』
「教育…ですか…?」
『ついて来なさい』
「え、今すぐですか?あ、お姉様、待って下さい…」
ただ命じ、レイアは返答も聞かず足早に歩み去る。


慌ててついていくヒルデガードの視界が捉えたのは、広大な中庭。
そこには、数多の魔族がひしめき合っている。
その集団の前に引き出されて来る者達がいた。
その者達もまた、同じ魔族。
ただ異なるのは、手枷足枷をはめられ列を成して出て来たことだった。
「お姉様?あれは…」
『脱走しようとした者達よ。馬鹿な連中の集まり』


脱走…軍を抜けるということ。
それは、戦いをやめようとしたからではないのか?
だとしたら…

『あいつらは、これから殺されるわ』
告げられた言葉に、ヒルデガードの思考が一瞬で凍りついた。

■ next ■