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その館は山間部の一角にひっそりと建っていた。
装飾は中華風であり、天子が住む天界の屋敷に比べれば簡素であったものの
十分に立派なお屋敷と呼べる代物だった。

「ここで面白い物が見れるの?」
『左様でございます。中へご案内いたしましょう』


そこは白く霞むような煙が立ち込めており、
まるで上海の摩天楼の一角を思わせる不夜城の雰囲気を作り出していた。

天子は青年に促されるまま、その屋敷へと入ってゆく。
玄関を抜け、赤い大きな龍の彫刻が施された柱を横目で見ながら
ほの暗い雰囲気の廊下を渡り、奥まった部屋へと通された。

『ここでしばらくお待ちいただけますか?
 準備をして参りますので』
「なるべく早くお願いね!待つのはあまり好きじゃないの!」
『承知しました。それでは急いで手配いたします』


そういうと、青年はすぅっと滑るように部屋から退出した。

「…何だか変ね。そういえば、こんな場所に屋敷なんてあったかしら?」

そう独り言を言いながら、天子は部屋全体を見渡した。
ふと、視線を下にやるとテーブルがあり、そこに何かが置かれている。

「…ん、メモがあるわね。
 何々、これよりお見せする演劇へと招待するにあたり、
 お召し物を用意しました。これに着替えて、大広間へと
 おいで下さい、だって。……って、何よコレ!」


そのメモの横に置かれていたドレスを見て天子は赤面した。
ソレは一見すると、黒い光沢のあるシルクの生地に
金字の入ったチャイナドレスのように見えたが…

あまりにも露出が多く、最低限の場所すら隠せない程の
ミニだったのである。

「バ、バカにしてるの!?
 こんな恥ずかしい物、着る訳ないじゃない!」

激昂する天子がドレスを床に投げつけようとした、その時だった。

「…何?甘い…におい…が……」

部屋の中に、先程とは比べるべくもない程の煙が充満してきた。
白く霞むそれからは、とても甘い匂いがする。
その匂いを鼻から吸い込むと、何だか急に気持ちが良くなってきた。
激昂していた気分が落ち着き、頭がぼぉーっとしてくる。
瞳から力が抜け、体も脱力していく。

『特製のお香の味は如何ですか?天人様』

部屋の奥から声が響いてきた。
それは実際の音声ではなく脳内に直接響くような声だった。
先程の青年の声のようにも、老人の声のようにも聞こえる。
しかし、今の天子にはそれが何なのかも分からない。

「……」

返事など出来るはずもなかった。
頭が真っ白になって、とても気持ち良いのだ。
何も考えず、思考を停止させることが、こんなに心地よいだなんて…

『比那名居天子様。貴方の存在は私が頂きました。
 このお香がその体を満たすとき、貴方も私の物になるのです』


部屋の奥には香炉が置かれおり、声はそこから響いているようだった。
天子が吸い寄せられるように、その香炉の前に立つと
より濃い煙がモヤのように立ち昇る。
そして…、ゆっくりと彼女の周りを渦巻いて行く。

スゥーーー、ハァーーーーー

一呼吸すると甘い香りが鼻全体に広がる。
気持ち良い。

『さぁ、天人様…、お召し物を…』
「…はい……」

天子は素直に肯くと、着衣を静かに脱ぎ始めた。
部屋の中には衣擦れの音のみが響き…

スル、スルッ……

全裸になる。
そして、ゆっくりと先程の破廉恥なドレスを身につけていく。

清楚な白い着衣に身を包んでいたはずの天人少女は
派手なミニの黒いチャイナドレスへと着替え終わり、
まるで淫らな踊り手のような雰囲気へと変質していた。

スゥーーー、ハァーーーーー

一呼吸すると甘い香りが胸に広がる。
きもちいい。

『さぁ、天人様…、爪を綺麗にしましょう』
「…はい…」

指先に青紫のマニキュアを施す。
指が濡れた毛先でなぞられる感覚が堪らない…

スゥーーー、ハァーーーーー

一呼吸すると甘い香りが体全体に広がる。
キモチイイ。

『さぁ、天人様…、唇に紅を注しましょう』
「はい」

唇に赤紫色の口紅を注す。
指で唇をソッとなぞると、下腹部がキュンとして堪らない…


スゥーーー、ハァーーーーー
スゥーーー、
ハァーーーーー
スゥーーー、ハァーーーーー……



鼻から、口から、白いモヤが一気に吸い込まれてゆく。

すると、華奢な体だった少女の体に変化が生じ始めた。
平らかな胸は、はち切れんばかり乳房に。
ツルツルの陰部には、淫らな陰毛が。

…しばらくすると、そのスレンダーな体型は、
蠱惑的で豊満なモノへと完全に変わっていた。

更に少女の表情も変化する。
輝きを映さない曇った瞳に邪な意思が宿り、
赤紫の紅が注された唇からは妖しい微笑みが浮かぶ。




『さぁ、大広間へと向かいましょう。
 私の淫らな舞いをお見せいたしますわ』

『(これで演劇用の人形が一つ出来上がりです。
  貴方の舞をお客様がお待ちですよ…)』
『ウフフ……』

既に天子の心は別の物に塗り替えられていた。
『面白い物』とはつまり…、彼女自身だったのである。
しかし、物の一つへと変えられてしまった事実など、
今はどうでも良いことだった。
お客様がお待ちかね、淫らな観劇の時を
提供することこそ私の全て。


彼女は誘われるように大広間へと足を踏み入れる。
満漢全席が並ぶ赤色の中華テーブル、スポットライトがあたる舞台。
そこには煙るようなモヤが充満し、妖しい空気に満ち溢れている。

しかし、その大広間には誰もいなかった。
否、姿は視認出来ないが歓声だけは聞こえてくるのである。
その見えない観客に向かい、天子は淫らに流し目を送ると、
ゆっくりと腰を下ろし、舞台の上で淫らに舞い始めた。






股を淫靡に開き、豊満な乳房を揉みしだき…
『はぁぁぁん…、あぁぁん…』
甘い嬌声を上げながら、黒いショーツ越しの濡れた陰毛を
スポットライトに晒す。
更には、マニキュアに彩られた指を這わせながら、
局部を見せつけるように腰をグラインドさせる。


心にあるのは多幸感のみ。


淫らな天人人形の演舞は夜が明けるまで続くのだった。






「あのぉ、そろそろ帰らないと神奈子様と諏訪子様に
 しかられてしまいます…」


夕暮れも迫る山道で、東風谷早苗は天子に問いかけた。

『それは着いてからのお楽しみでございます。
 ささ、日が暮れる前にその場所へとご案内いたしましょう!』

「……天子さんって、そんな口調でしたっけ?」
『もちろんでございます!
 風祝の巫女様の退屈を解消してくれる素晴らしいモノをご覧にいれますよ!』

「……(うぅ、会話がかみ合ってない、それに妖怪の山にこんな山道は…)」


早苗が天子と出会ったのは、つい先程のことである。
いつも通り、町へと買い物に出たところに
露天商をしている彼女と出会ったのだ。

「天人が露天商?もしかしたら、地上では見れない素敵な物を
 売っているのかも知れません。お二人のお土産に丁度良いかも」


しかし、並んでいる物はどれも簡素な作りの物ばかり。
とても天界の品物とは思えない。

『う〜ん、お目に適う物がございませんか… 
 そうだ、これなんて如何でしょう?』


そう言うと、天子は六角形の紫水晶のペンダントを取り出した。
彼女の掌に乗せられているソレは夕日を受けて、不思議な光を放つ。
…その光が早苗の瞳に飛び込むと、まるで吸い寄せられるように
彼女の視線が固定された。

「これは……」
『よろしければ、ここに持ってきた物とは比べるべくもない
 面白いモノをお見せしますが、如何ですか?』

「…いいですね…、ぜひみてみたいです…」
『ならば、ご案内しましょう。ついてきて下さい』
「はい…ついて…いきます……」


抑揚のない声。先程までの怪訝さが嘘のように
脱力した表情で早苗は肯くのだった。



今宵の演舞は二人の淫らな人形劇。
一人は蒼空の髪を持つ天人人形。
もう一人は翠玉の髪を持つ巫女人形。


二人とも、黒い淫らなチャイナドレスに身を包み、
スポットライトに照らされながら、妖しく踊り続ける。

甘い煙に誘われながら、その観劇は朝まで続くのである。







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