(魔法少女リリカルなのはAs フェイト・T・ハラオウン)


■3

催眠術をかける為にフェイトを床に座らせる。
術式を展開させると、ペタンと座っている彼女の足元から
ユーノの魔法光である緑色の魔法陣が発生した。
温かで穏やかな光がフェイトの全身を包みこんでいく。

「(なんだろう…、ベットの上で横になってるみたいな感覚…)」
だんだんと眠くなっていくような感じだ。
ここ数日は執務官試験の勉強でろくに寝ていない。
それは抗いがたいまどろみとなって、少女の脳を甘く痺れさせていく。

静かに、語りかけられる。
『フェイト、心を穏やかにして』
「うん」
『僕の手に魔法光が見えるだろう。これを見つめて』
「うん…」

ユーノの手から放たれる光は目に刺さるような強いものではなく
ボゥッと浮かぶ火の玉のような球体の形状を取っていた。
それが明滅を一定感覚で繰り返す。
『この魔法光を見つめるだけで良いんだ。
 ずっ〜と見つめる、ただ、見つめるだけ…』
「…見つめる、ただ…、みつめる…」

それを見つめている内に奇妙な精神状態におちいって行く。
眠くて、頭の中の思考能力が極端に低下しているのに…
意識は存在している状態。
眠気を我慢して、無理に教科書を開いてる時のような感覚に近いが
不快感のようなモノは全く感じず、むしろ心地が良い。
自分が今何をしているのか分かるが、思考が停止しかけているので
全てがどうでも良いように思えてくるのだ。

「……」
フェイトの目がトロ〜ンとしてきた。
可愛らしい唇は半開きになり、一定感覚の呼吸が繰り返され始める。
半覚醒の状態に入ったのだ。

『フェイト、これから君は強い自分を手に入れるよ』
「はい…、つよい……じぶん…」

虚ろな表情でほわぁ〜っとしてるフェイトは何時もと違った可愛さがある。
「すぅ…、すぅ…、すぅ…」
一定の呼吸を繰り返し、差し出された魔法光をただ見つめ続けている。
心も体も全てが虚ろ。
全てを無防備にさらけ出す少女の姿は不思議な艶っぽさを伴う。
思わずユーノはドキドキしてしまったが、頭を振って雑念を追い払った。
『(今はフェイトに勇気を与えてあげなければいけない。
  でも、ここから具体的にどうすればいいだろう…?そうだ!)』

ユーノは一つの方法を思いついた。
『フェイト、君はこれから自分が一番強いと思う人になりきります』
「いちばん…つよい…ひ…と…』
『その人の心を受け取って、強い自分になります』
「つよい…じぶん…なる…」

フェイトは瞳を閉じて、強い人をイメージし始めた。
ユーノは思った。
彼女の事だから、なのはかシグナム辺りをイメージするだろう、と。
…それが大いなる誤算であることに数分後彼は気づく事になる。

『それでは僕が手を叩いたら貴方は目を覚まします。
 でも目を覚ました貴方はフェイト・テスタロッサ・ハラオウンではありません。
 今想像した人物が自分であると認識し、その人になりきります』
「…はい、わたし…は…フェイトでは…ありません…、
 わたし、そのひと…、なる…」

『いいですね、では目を覚まします。3…・2…・1…はいっ!!』


パン!!と手を叩いてフェイトを起こす。フェイトは静かに目を開けた。

『どう、気分は?』
『……』

そして、目を覚ましたフェイトは…

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