(魔法少女リリカルなのはAs フェイト・T・ハラオウン)


■2

それから更に数年の月日が流れ…
なのはのリハビリに付き合う日々が続いていた。
目下の悩みは親友の容態。
そして、自身が叶えると決めつつも重くて開けない未来への扉。
その入り口たる2回目の執務官試験は容赦なく間近に迫っていた。

フェイトは遂に意を決した。
何事も一人で抱え込む悪癖がある彼女だが、
それを打破するべく1歩を踏み出したのだ。
『他者に相談する』という、その1歩を…


「どうしたの?フェイト。何か悩みでも?」
「うん…、実はユーノに相談したい事があるんだ」


何時にも無く真剣なフェイトにユーノは向き合った。
…が、ユーノのほうが慌ててしまった。
女の子と自室で二人きりというシチュエーションは彼にとっても今だ緊張する代物。
何よりフェイトからはとても良いにおいがする。
陽だまりの温かさを思わせる優しさを含んだ、柔らかく甘い少女特有の香り。
それは思春期の少年の平常心を失わせるのに効果絶大だ。
「(落ち着いて…、落ち着いて……、相手はフェイトだぞ、友達なんだ、友達)」
ユーノは鼓動を悟られないように平常心を心がけて少女に向き合った。
フェイトは悩みがあるらしい。親友として、きちんと相談に乗らなければ。

「実は執務官試験の事についてなんだ」
「あぁ、もう少しで試験日なんだっけ、でも今回は大丈夫だと思うよ」
「うん…、そうだといいんだけど」


自嘲気味に笑うフェイト。
どこか泣き笑いのような寂しさを含む笑顔を見せる時が彼女にはある。

「クロノの話だと、筆記の方は問題が無いって。でも、問題なのは…」
「もしかして実技の方?」

意外な返答だった。
ユーノの知る限り、フェイトの実戦レベルはかなりのものである。
確かに管理局のエースと呼ばれる人達から見れば未熟なのかも知れないが、
それでも確実に前線で戦えるレベルだろう。

「意外だなぁ、まさか実技で引っかかるなんて。一番の得意分野だと思うんだけど」
「それが試験だと思うと、上手くいかないんだ。
 それに…、試験管の人を相手にする時迷っちゃうんだ。
 傷つけたら痛いだろうなぁ、って考えちゃったり
 魔法の力を戦闘に行使する事が本当に正しいの?とか思うと…』


ユーノは納得した。
原因はフェイト自身の優しさと真面目さにある。
今までの戦いでフェイトが実力を発揮した時は『戦わなければ誰かを救えない』時だった。
それはなのはも同じなのだが、フェイトはその傾向が著しいといえる。
もちろん、シグナムとの模擬演習でも実力を発揮してはいる。
しかしそれは気心が知れてる中であるのと同時に
全力で胸を借りる事が出来る相手だからだ。

つまり、他者を傷つける事が出来ない。それが原因である。
本来は長所となりえる部分が、今回は足を引っ張る要因になっているようだった。

「フェイト、君は優しいから躊躇っちゃうんだね」
「う〜ん、優しいというか…、きっと心が弱いんだと思う」
「それは違うよ、他人を平気で傷つけるような人は逆に執務官には向いていないと思う。
 クロノだってそうだろ、頭は固いけど根は優しいからね」

「うん、お兄ちゃ…じゃなかった、クロノ優しいから…」
「フェイト、無理してクロノって呼ばなくていいんだよ、
 家でお兄ちゃんって呼んでるの知ってるから」

「あうぅ///」


顔を真っ赤にするフェイト。
最近はこの呼び方が板についてきてるらしく、思わずユーノは苦笑してしまった。
でもそれ以上に、この出来た妹は義兄の事を心から尊敬している。
その事が感じられて、ユーノは温かい気持ちになった。

「ようは自信を持って望めばいいんだよ」
「自信…うん、でもどうしたらいいのかな?」
「自己暗示…とか」
「自己暗示??催眠術とか、そんな感じの?」
「そうだね、催眠術って言えば妖しい術のように聞こえるかもしれないけど、
 立派な医術なんだ。精神的なトラウマを解消するように暗示をかけたり、
 もっと簡単な所だと食べ物の好き嫌いを無くしたりとか」

「そうなんだ。それで、ユーノは催眠術が使えるの?」
「うん、一応は。こう見えてもサポートの魔法なら得意だからね」

一瞬、考え込んだフェイトだったが意を決した。
悩んで立ち止まっている場合ではないのだ。

「ユーノ、お願いしてもいい?
 ほんの少し後押ししてもらえるだけでがんばれる…、そんな気がするんだ」
「分かった。それじゃ、フェイトが勇気を持てるように暗示をかけてあげるよ」

大切な親友の力になりたいと願う少年が提示した一つの療法。
嗚呼、それが本来の未来とは大きく異なる形をもたらす事になるとは知る由もなく。
そして…、賽は投げられた。 

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