(魔法少女リリカルなのはAs フェイト・T・ハラオウン)


■1

フェイト・テスタロッサ・ハラオウンは悩んでいた。
闇の書事件から数年が経ち、今の生活にも大分慣れてきた。
P・T事件以前の彼女の境遇から考えれば、
今の生活は順風満帆以外の何者でもない。

それでも悩みというものは必ず発生する。
幸せである事と悩みがない事…
それらは必ずしも=(イコール)では繋がらないのだ。

「どうしよう、次の執務官の試験…」
そう、それが今彼女が抱える大きな悩みの種だった。


実際には彼女の年齢で今の実力は破格のものと言える。
与えられた才覚とそれを生かす為の努力、少女はそれを厭わない。
幼さに不相応な高い実力はそうして得られたモノだった。
それでも簡単に乗り越えられない壁というのは誰にでも必ずあるもの。
残念ながらそれは彼女とて例外ではなかったようだ。



現在、フェイトはハラオウン家の末娘として地球で学生をしながらも、
執務官候補生として充実した日々を送っていた。
彼女の出自は決して恵まれたモノでは無かったが…、
温かい家族、何より自分を暗闇から救い出してくれた大親友なのはもいる。
今の彼女は幸せだった。

その幸せに陰りが出たのは半年程前。
なのはが任務中に大怪我を負ったのである。
もしかすると魔法の使用はおろか、歩く事もままならない体になるかもしれない。
それが医者の出した結論だった。
フェイトはなのはに付きっ切りで看病をした。
「(なのはは私を助けてくれた。今度は私がなのはを助けるんだ!)」
そう心に誓いながら親友の長年のパートナー、ユーノと共に
リハビリに付き合う日々は半年以上も続いた。


そんな生活の中で執務官試験の勉強をしてる間があるはずも無く…
それでも、根が努力家であるフェイトは執務官に合格する為、努力を惜しまなかった。
ユーノがなのはの看病をしてる間はもちろんの事、
なのはが眠りに落ちてるベットの横でも勉強にいそしんだ。
しかし結果は…駄目だった。

努力が足りなかった。
フェイトは素直にそう思った。
彼女の思考になのはの看病に時間を取られたから、という理由は存在しなかった。
親友のせいにするなんて考えもしなかったのである。

フェイトという少女はそういう子なのだ。
裏表がない優しく健気で真っ直ぐな子。
ともすれば人間的ではないのかも知れず…
それが実の母親から受け入れられなかった原因でもあるのだが…
フェイト自身に罪はない。
むしろ大切にしてあげなければならない長所と見るべきだろう。 

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