(聖剣伝説3 シャルロット)


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古の都ペダン。そこには予言を記したレリーフがある。
そして、そのレリーフにはこう記されている。

   世の終わる時、マナは失われ、大いなる命の木は
  仮面の魔物によって枯れ果てる。マナの剣 魔に堕ち 
    絶望の先に広がるは無限の死者の国。


そのペダンの西方にミラージュパレスという城がある。
かつてはペダン王族と一部の者のみが存在を知る
祭祀の宮殿であったが、今は…
幻と虚構で構成された宵闇の宮殿、静寂と永遠が混在する死者の霊場。
生者はその静寂に恐怖を憶え、死者は与えられた永遠に歓喜する。
それは正に現世に出現した常世の国そのものであった。

その宮殿の主である仮面の道士は奥の間に座して世界を憂う。
彼の思想は『死による生者の救済』。
死によって生の苦しみから全てのものを解放するというもので、
その歪んだ慈愛は確実に世界を死へと向かわせるものであり、
狂気に彩られた思想であった。



今日も彼は瞑想を行いながら、来る永遠の時に想いを馳せる。
だがその瞑想は自らの配下の来訪によって中断されることとなった。
その男はピエロ風のいでたちで
悪魔を彷彿とさせる醜悪なフォルムの仮面を身につけている。
自らを『死を喰らう男』と称する彼は、こびへつらうように畏まる。

『これはこれは仮面の道士様。瞑想の時間を邪魔してしまったようで』
『構わん。マナの剣が我が手中にある今、現世が冥府へと変わるのも時間の問題。
 なれば、瞑想の時間などいくらでも取ることが出来よう。それよりも…』
『はい、言われていた『素材』は確保出来ましたヨ。
 あとは御子息にかけた呪法と同じモノを用いれば…』

『そうか。ではこの儀式の下準備はお前に任せよう』
『え?それはちょっと…』
『なんだ、不服なのか?』
『いえ、実はワタクシあのがきんちょ…じゃなかった、あの娘はどうも苦手でして』
『ふん、だがあやつは極上の魂を持っておる。さすがは憎き光の司祭の孫娘よ。
 その魂をお前に食わせてやろうというのだが…
 嫌ならばそれでも構わぬ。代わりの者にやらせるだけだ』
『ちょ、ちょっとお待ち下さい!!今のお言葉、本当でございますか!?』

美味い魂を食わせてやるという申し出に男は目の色を変えた。
あの娘の魂は確かに高級食材。それを逃す手などない。
手のひらを変え、おべっかを繰り出す為に思考ロジックを変換させる。
それは狡猾な者ならば誰もが所持する処世術。
この死を喰らう男とてその例外ではない。

『ワシがお前達に嘘をついたことはあるまい。
 お前と違ってワシは魂を喰らうことに興味は無い。
 これは救世を行う為に必要な行為なのだ』
『と、言いますと?』
『ワシの胸に今だ去来し渦巻くのは、聖都ウェンデルでの屈辱の過去。
 そして、その象徴が…』
『光の司祭でございますネ』
『そうだ。奴の孫が我が手中に堕ちたことを見せつけ、
 ワシが味わった屈辱以上の苦しみを奴に与える。
 それにより我が積年の恨みは浄化され、ワシは真の救世主(メシア)となれるだろう』
『なるほど、人を捨て解脱する為に必要な儀式ということなのでございますネ!!』
『それだけではない、あの娘はとてつもない資質の持ち主。
 シモベとすれば死による世界の救済はより早まることだろう』
『それならばお任せ下さい!!是非、その下準備を完遂させて頂きますヨ!!』
『よかろう、では任せたぞ』
『ははぁ〜〜〜〜』


しかし…、主の間を出た男は溜息をついた。

『とは言ったモノの…、あのガキは生意気な上に口うるさいですからネ〜
 まぁ、あのガキが忠実なシモベに変われば、今までの鬱憤もはらせますカ。
 美味い魂も喰えることですしネ〜、これはオイシイ仕事ですヨ!』


そんな風に自分に言い聞かせて、彼は意気揚々と『素材置き場』へと向かうのだった。




ミラージュパレスの地下室。レバーを引くと入り口が開く。
そこに響くのは場違いな叫び声。

「あぁぁ!!あのときのへんてこおやじ!!シャルロットをどうするきでちか!?」
『相変わらずうるさいがきんちょだネ!!
 血統は良いんだから少しはお淑やかにしたらどうだい!?』


その少女は寝台に縛られて貼り付けにされていたが、囚われの姫というには程遠い。
何よりその可愛らしい唇より紡がれる言葉はマシンガンを思わせる。止まらないのだ。
だが、男の言う通り血統は確かなものである。

父はマナの女神を奉る聖都ウェンデルのエリート中のエリート、
光の司祭の息子であり、母はエルフの王族の姫君。
その間に生まれたのがこのシャルロットという少女なのだ。
見た目は10歳にも満たない幼さだが、
それはエルフの血を引いてる為であり、実年齢は15歳。
その血統のよさを証明するように、癖が有りながらも光沢を放つ美しい金髪、
垂れ目がちで大きく澄んだ瞳、整った顔立ち。
正に美少女と呼ぶに相応しい様相である(黙っていれば)。

「さてはシャルロットにいたずらをするつもりでちね?
 はじめてあったときから、へんたいだとおもってたけど、
 へんたいなうえにロリコンなんでちね!!」
『だまらっしゃい!
 ワタクシは魂が喰いたいだけでお前のようなガキには興味ないヨ!!』

「ロリコンはみんなそういうんでち!!だけどへやをちぇっくすれば、
 ようじょのしゃしんがざっくざく!!
 あんたしゃんみたいなひとを「しゃかいのがいあく」というんでち!」
『幼女の写真なんか集めてないわヨ!!』
「おれがしんだら…へやはもやしてくれ!それがかれのゆいごんでちた」
『あぁもう五月蝿いネ!!そんな口もこの儀式が終われば利けなくなるヨ!!』
「あぅ〜!!ついにはじめてしまうんでちね!?
 ロリコンねんがんのりょうじょくタイム!!
 あぁ、かわいそうなシャルロット、
 このロリコンおやじにしょじょをちらされるのでちね!?」
『・・・・・・(もう付き合いきれん)』
「でもこころだけはヒースのものでち!!しょじょをうばわれ、
 かなしむシャルロットをヒースはやさしくだきしめてくれるんでち!!
 そしてふたりはえいえんのあいをちかうのでございまち・・・」


えへ、えへへと笑い始めるシャルロット。
どうやら妄想の世界に突入してしまったようである。
この少女の前には流石の『死を喰らう男』も形無しと言ったところであった。だが…

『ヒース、ですか。ウケケ』
「なにがおかしいんでち!!それよりも、ヒースをさらったのはおまえでちたね!!
 ヒースをかえすでち!!」
『この世界にヒースという男はもう、存在しないヨ』
「そ、そんな……、もしかして、こ、ころ…」
『まぁ殺したといえば殺したことになるんでしょうネ』
「うぅ…おまえが…、おまえがヒースを…、ゆるさないでち!!」


キッと目の前の男を睨みつけるシャルロット。
その瞳は愛する人を奪われた怒りに燃えている。
おしゃべりでおませ、でも少女の内面にあるのは大切な人への思慕。
それは純粋な気持ちである。

『おっと勘違いしては困るネ。奴ならちゃんとこのミラージュパレスにいるヨ』
「ど、どういうことでちか?」
『奴は闇の呪法によって『堕ちた聖者』となり、我らが仮面の道士様に仕えているんだヨ』
「おちた…せいじゃ?そ、そんなのうそでち!!」
『嘘じゃないヨ。そして、仮面の道士様はお前もご所望されているのサ』
「シャルロットも…?」
『そう、ワタクシは命令を受けてるんだヨ。
 お前を仮面の道士様に仕える忠実なシモベ「堕ちた聖女」へと
 堕落させるという使命をネ』

「うぅ…そんな、いやでち!ぜったいにシモベになんかならないんでち!!」


顔面蒼白になりながらも、必死に強がって見せるシャルロット。
死を喰らう男は初めて優越感に浸っていた。この少女が怖がっている。
その内面を感じ取ったからである。

『奴も初めはそう言っていたネ。絶対にお前達のシモベにはならないと。
 だが奴の心も闇に染まり、今では忠実な仮面の道士様の左腕サ!
 右腕はこのワタクシだけどネ』

「ヒースが…、あのヒースが…、やみに…?しんじない、そんなのしんじない!!」
『ウケケ!いいネ、その絶望。魂の味を美味しくする最高の調味料ですからネ。
 さぁもっと、絶望してもらいましょうカ?』


舌なめずりをすると男は印を組む。そして…

『ブラァックカ〜ス!』
「アゥ!!からだの…ちか…ら…が…」
『なかなか効くでしょう。どうですカ?闇の呪法の味は?』
「こんな…の…だめ…でち…、やみの…ちからは…
 つかっちゃ…いけないって…おじい…ちゃんが…」
『光の司祭らしい発言ですネ。光だけが正義で正しいと信じる愚かな思想デス』
「おじい…ちゃんは…おろか…じゃ…ないでち…」
『その考えもこの儀式が終わる頃には変わっていることでしょう。
 さぁ、体の力は抜けきったようですネ』


さらに印を組むと、風が巻き起こりシャルロットの服が剥ぎ取られた。
幼い容姿が示すとおり、その体は子供そのものであるが
無垢さを象徴するような美しさがある。

「だめ…でち…、はずか…しい…」
『ふん、一丁前に恥ずかしがりますカ。
 ですがさっきも言った通りガキの体などに興味は無いんですヨ』
「なんで…どうして…」
『お前は「堕ちた聖女」の名に相応しい存在に進化するんですヨ。
 あんな子供サイズの服は邪魔なだけでしょう?』
「いや…でち…、たすけて…、たすけてぇヒース!!」
『呼んでも奴は来ませんヨ!!さぁ、それでは始めますヨ!』


魔力と邪気が混ざり合った瘴気がシャルロットを包み込む。

『仮面の道士様。準備は整いましたヨ!
 さぁ、この小娘にもありがたい説法をお願い致します!!』


そして、少女は闇に包まれた。



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