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あの忠告が一瞬頭を過ぎりましたが、結局私は…
彼女の言葉に返事をすることにしました。


「聞こえてるよ」


その瞬間。

『あ リ が ト ウ 、こ れ デ 』



『の り ウ つ レ る』



「(!?)」


そう聞こえると、私の体に何かが覆いかぶさってきました。
それはとても冷たく、そして柔らかいものでした。
私の体は何かに操られるかのように、仰向けになり…
その覆いかぶさる何かを受け入れるような姿勢になりました。

何かが私の中に入ってくる…!
私の恐怖感は最高潮に達していました。

まず、足が何かと重なる。
すると、足の感覚がすぅ〜と抜けていきます。

次に腕の間接の辺りに冷たい手のようなものがあたり…
まるで、ひんやりとした霧のようなものが腕の中を通りすぎました。

まずい…、このままじゃまずい!
私は本能的に危機感を感じ、思わず…
目を開けてしまいました。

そこには全裸の女が覆いかぶさっていました。
髪は長く、真っ白い肌をした女。


私はかろうじて動く目で、見ました。
既に私の両足は女の足と重なっており、腕は女の両腕で
押さえられていました。

それはあたかも。
女がこれから、私の体を犯そうとしているかのような体勢。
更に女の顔は私の上半身を見下ろしており、怪しい笑みを
浮かべていました。

『これで旦那様にまたご奉仕できる。
 体があれば、旦那様を悦ばせることができる…』

そういうと、女は下半身を私の下腹部へと重ね合わせました。
ぬるり…と何かに包み込まれるような感覚があり…
この感覚はもしかして…

ねっとりと絡まるように、私の下半身が飲み込まれていきます。
正直に話しますが、それはとても気持ちの良い感覚でした。
それと共に私の心にも不思議な感覚が発生してきました。

このまま、どうなってもいい。
このまま、この感覚に身を任せていたい…
私がこのまま彼女に乗っ取られたら、どうなってしまうんだろう…

淡い期待のような、不思議な感覚が心を埋め尽くしていきます。
それに呼応するように、女の笑みが私の顔に近づいてきました。

胸が高鳴る。
ドキドキと鼓動が早くなる。
その鼓動を確かめるように、女の柔らかな胸が私の胸と重なり、
そのままゆっくりと私の体の中へと沈み込んでいきます。

そして目の前には女の笑み。
怪しく美しい、真っ白い、女の、顔。

女の唇が私の唇と重なります。
瑞々しく柔らかな感覚と共に、口内を犯されるような舌の感覚。
そのまま、女の顔も私の中に飲み込まれていきました…


私の心からは既に恐怖心は消えていました。
体の感覚は依然として言うことを聞いてはくれませんでしたが、
何者かに私のすべてが掌握されている、という感覚が
不思議な興奮となって、心を埋め尽くしていたのです。

私の口から、女の声が響きます。
口元も自然と動かされている感覚がありました。

『まずは封印を解きましょう。額縁の裏…』

その声と共に私の体は自然と立ち上がりました。
まるで糸で体の全てを操られているような、オートマチックな感覚…

そのまま、私は油絵の収められた額縁の裏を覗きました。
そこには1枚のお札が貼られていて… そう、
幽霊の出る部屋の絵にはお札がしこまれている、というアレです。

私はそのお札を剥がすと、ビリッとそれを破りました。
すると再び私の口から、女の声が響きます。

『これで大丈夫。もう、私を縛るものはない…』

そのまま、私の足が自然に鏡台へと向かいます。
そして鏡を覗き込みました。そこには…

先程の女の姿が映っていました。
しかし、先程と違うのは女の顔に生気があること。
肌は生き生きとした自然の色合い。
何より、恐怖心を感じていた時にはあまり実感していませんでしたが
かなりの美人でした。

その姿は全裸。
美しい女性らしい裸体が鏡に映し出されています。
乳房は美しい形をしており、陰部も完全に女性そのもの。

更に私の右手がクンと上げられると、鏡の中の女の右手も同じように
上がり…、それが何を意味しているのかを私は悟りました。

『(俺、今この女になっているのか?)』

『そうよ、貴方はこれから私になるの…
 身も心も私に生まれ変わるのよ…』

私の口から恐ろしい発言が紡がれました。
しかし、鏡を見れば、それは女が発している言葉そのもの。


その瞬間、急に頭の中に記憶が流れてきました。
今とは違う場所、この町の古い景色。

女の名前は静子(しずこ)といい、この旅館が創業された当時、
表向きは仲居として奉公していました。

しかし、彼女の主な仕事は別にありました。
それは、この部屋で男に奉仕すること。

入れ替わり、立ち代わりやってくる男たちに
性的な奉仕をして過ごす日々。
美しい彼女を抱くためにやってくる男達はみな大金を叩き、
この旅館に富をもたらしていきました。

そのせいで旅館は繁盛し、改装を重ねて立派になっていったのです。
ですが…

女を体でしか見ていない男たちとの日々。
そんな毎日に静子は虚しさを覚えていました。
その生活が何年か続いたある日、彼女に転機が訪れます。

一人の心優しい男が、彼女に真剣に惚れ、婚姻を求めてきたのです。
ほんのひと時の幸せな時間。

でも、それは長続きしませんでした。
何故なら両親の借金の形に、この旅館に奉公に来ていた彼女に
幸せな生活を送る権利など、あろうはずがなかったのです。

思い悩んだ二人は心中という最悪の選択を選んでしまいます。
しかも、不幸なことに…
男は辛うじて助かり、静子だけが命を落とすことになってしまったのです。


そして彼女はこの部屋に縛られました。


『ずっと待っていたの…、貴方のように私と同調できる人間を。
 私の記憶が貴方に流れ込んできたでしょう?
 これからは、この記憶が 『貴方の過去の思い出』 になるのよ』


記憶のみならず、彼女の心までが私の中に入ってきます。
だから、彼女が求めていることも分かってしまいました。


『これで旦那様にもう一度会うことができる…』


私は思いました。彼女の時は止まっている。
愛した男が、まだ生きていると思っているのです。
しかし、今は平成。
明治から何年の月日が流れたのか、彼女は理解していないのです。

『あぁ、旦那様…、早く旦那様に会いたい…』

私の唇から、再び声が紡がれます。
そして、体は自然と鏡の前に座り、ゆっくりと股を開いていきます。
左手が自然と豊かな乳房に添えられ、右手は下腹部へと伸びていき…

そう、先程から体が疼いているのです。
下腹部の内側がキュンとして切なく、内股から太ももへと
温かく濡れた液体が伝う感覚がありました。更に…
乳房の中心にある乳首が硬く勃起しているのも分かりました。

『あぁ…、はぁぁん……』

左手が自然と胸をもみ始め、右手が下腹部の濡れた陰部を弄りはじめます。
私は始めての感覚に戸惑いつつも、興奮を感じていました。

『んふふ…、初めてじゃないでしょう?』

そう、初めてじゃない。この感覚を私は知っている。
右手の温かな感覚とジンワリと波のように広がる感覚が
気持ちよく内面で反響し、私の心を興奮させていきます。

それは更に全身へと反響して、下腹部の奥へと響いていきます。
その甘い感覚の一つ一つが、元の私の記憶を、感情を消して…
消えた場所には彼女の記憶、感情が置き換えられていきます。

いつしか、私はこの陶酔した女性のオナニーに没頭していました。
男のオナニーの絶頂直前の気持ち良さが、果てることなく延々と続く
(それも全身が一つの性器になってしまったような感覚)に
元の私の心は完全に消去されていきました。


『さぁ、私になりましょう…』


心が真っ白になり、そして染められていく。
静子の色に染まっていく。

『あぁ、旦那様。せつのうございます』
「(あぁ、旦那様。せつのうございます)」

乳首をコリコリッとつまみ、
お豆を指でくりくりとこね回す。

『旦那様、早く静子を、静子を抱いてくださいませ』
「(旦那様、早く静子を、静子を抱いてくださいませ)』

たまらず、指を二本ざしにして、陰部の中へと出し入れする。
足りない、旦那様のはもっと、もっと太かった…

『静子の身も心も、全ては旦那様のものです』
「(静子の身も心も、全ては旦那様のものです)』

あぁ、子宮が疼くぅん…
赤ちゃん、旦那様の赤ちゃんが欲しいぃぃ!

『あぁ、旦那様…、いく…、静子、いってしまいますぅ!!』
「(あぁ、旦那様…、いく…、静子、いってしまいますぅ!!)』

いく いく いく いく いく いくぅぅぅ……!

『いく…、いくぅぅぅぅぅぅッッ!!』
「(いく…、いくぅぅぅぅぅぅッッ!!)」

ビクッ、ビクゥ、ビクゥゥゥッゥ!!



絶頂の余韻。
しばらくグッタリとした後、私は再び上半身を起こす。
鏡に映るのは私の姿。
美しい長い髪も、豊満な乳房も、男達を悦ばせる名器たる陰部も全て私。
口元が自然とつり上がる。
鏡の中の私は怪しく微笑んでいる。

私の唇が自ら言葉を紡ぐ。
ゾクゾクとした悦楽に胸を焦がしながら。


『そう、私の名前は静子。
 待っていて下さい旦那様…、ふふっ、ふふふふ…』


その自らの妖艶な笑みを見つめながら、私の視界は白くぼやけ…
意識は遠のいていきました。





チュンチュン…
外から聞こえる雀のなき声で目を覚ましました。

「!?」

私は一瞬で我に返ると、素早く布団をめくって自分の体を確認しました。
すると、そこにはいつも通りの私の体。
当然、乳房などはなく、何より安心したのは男性の方も無事だったことです。
しかし、まだ信用できない。

私は布団から這い出ると、恐る恐るあの鏡へと向かいました。
鏡の中には…、いつも通りの私の顔。
あの女の面影はどこにもありませんでした。


しかし、昨日の出来事が頭を過ぎると、あの陶酔感が嘘のように霧散し、
冷たい氷柱を背中に入れられたような恐怖感へと変化しました。


それからのことは良く覚えていません。
たぶん、逃げるように旅館をチェックアウトし、
東京へと転げるように帰ったのだと思います。




あれから数年が経ちますが、私は今でも怯えながら過ごしています。
なぜなら…


最近、不自然に記憶が飛んでいる時があるのです。
いつの間にか女物の服がクローゼットにあったり、
洗面所に口紅や化粧品があったり、更に見知らぬ男から…

「昨日はとても良かったよ!また会えないかな?」

などと、連絡が届いたりもするのです。
そんな連絡が届く日は大抵、前日の記憶がない時と一致します。

そして、その感覚が最近は頻繁に起こるようになってきています。
普段も食べ物の好みや趣味が変わり、何から何までもが
以前の自分とは違ってきている、そのことが怖くて仕方がないのです。


きっと静子はまだ私にとり憑いているのだと思います。
そして、愛しい旦那様を求めて、彷徨っているのです。

私は近いうちに、有名な霊媒師にお払いをしてもらおうと考えています。
自分が自分でなくなってしまう前に、早く何とかしないと
取り返しのつかないことになるような気がするからです。


皆さんも、もし旅館に泊まる時は必ず額縁の裏をチェックしてみてください。
そして、もしお札が貼られているならば、すぐに部屋を変えてもらうことを
お勧めします。

私のような目にあってからでは、遅いのですから。


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僕は心霊の専門家ではないのですが、これは色情霊の類なのでは、
と考えています。

早く除霊をしてもらい、1日も早く安心した生活が取り戻せるように
心からお祈り申し上げます。それでは、投稿ありがとうございました。


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